STORY BOXⅡ

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
26 / 115
007.迷いの森

しおりを挟む
(……ここは…?)



ヴェールがゆっくりと目を開くと、甘い香りとすべらかな肌がヴェールに覆い被さるように近付いてきた。



 「良かった…ヴェールさん、気がついたんですね!」



この香り、この肌、そしてこの声は…
ヴェールの心臓が、いつもよりずっと速く脈打つ。




 「ま…まさか、あなたは…」

 「ヴェールさん、長い間会ってなかったからって妻の顔を忘れたんじゃないでしょうね…」

 「ジ…ジネットさん…!」

 「ヴェールさん、お会いしたかった…」

 驚いて上半身を起こしたヴェールの唇に重なるそのやわらかな唇の感触を、ヴェールが忘れるはずはなかった。



 「ジネットさん…
いや、そんなわけがない…
私は幻覚を見ているのか?」

 「おかしなことを言わないで下さい。
ヴェールさん、ほら、私の体温が感じられるでしょう?
 心臓の鼓動もほら…
あなたに会えていつもより速く打ってはいますが、私は幻覚などではありません。
あなたの鼓動も私のと同じように速いわ…
あぁ…ヴェールさん、夢みたいです。
またこうしてあなたに会え、そして触れ合う事が出来るなんて…」

ジネットは、溢れ出る涙を指で拭った。



 「そ…そんな…
なぜ、こんなことが…
しかし、あなたは…」

 「それ以上言わないで…辛くなります。
そのことはもう忘れましょう。
 私は、生身のジネットです。
それで良いではありませんか…」

 首に両手を回すジネットが、ヴェールの耳元でそっと囁いた。



 「ジネットさん…本当にあなたなんですね…!」

 「ええ…ヴェールさん…」

 「ジネットさん…!」

ヴェールがジネットの身体を包み込むように抱きしめ、再び、二人の唇が重なった…



「ジネットさん…
間違いない…
あなたはジネットさんだ…!」

 「さっきから何度もそういってるじゃないですか。
 妻の話を信じてくださらないなんて酷い方だわ。」

 「しかし…あなたは…」

 「そのことは言わない約束でしょう?
そんなことより、あなたが休んでる間に食事を用意しといたんです。
 一緒にいただきましょう!
あなたのお好きな人間の食事ですよ。」

 「ありがとう、ジネットさん。
 実は朝から食べてなくて空腹だったんです。」

ジネットは、その言葉にくすっと笑い、部屋の奥へ消えて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

処理中です...