夢の硝子玉

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
722 / 802
故郷へ

21

しおりを挟む
「アルディ…その人間達が悪い奴じゃないことはわかっている。
しかし、わしらに何の断りもなく獣人の婚礼の衣装を貸すというのはどうかと思うぞ。」

「彼らは俺にとって大切な友人だ。
それに、俺はここの族長なんだ。
俺の一存で決めても構わないと思うが……」

「そんな……」

アルディの強気な発言に、獣人達のざわめきはさらに大きくなった。



「みんな、聞いてくれ!」

ジャネットの発した大きな声に、その場は、一瞬、静寂を取り戻した。
獣人達もフレイザーやアルディも、驚いたような顔でジャネットをみつめる。



「今度、みんなの仲間になったジュリアスは……実は、私の双子の兄弟なんだ。」



ジャネットの言葉に、再び、獣人達のざわめきが広がった。



「兄弟って…あんたは人間じゃないか!」

「確かに、私は人間に見えるかもしれない。
でも……私は、違うんだ。
私の母親は人間……そして、父親は獣人だ。
ジュリアスは父親に似て獣人として…そして私は人間として生まれた。」

「嘘だ!人間の子は、殺されるのがしきたりのはずだ。」

「そう…私も私の母も本当は殺されるはずだった。でも……」

ジャネットは、そこまで話すと言葉に詰まりそのままそっと俯いた。



「俺の…いや、俺達の父さんが、命を賭けて二人を逃がしたんだ!」

いつの間にかジャネットの隣にはジュリアスの姿があった。
獣人達は彼の言葉に驚いて何も言えず、ただ、黙って二人の話に聞き入った。



「……詳しい話は、あとで二人からゆっくり聞けば良い。
今、本人達が話したように、彼女はハイブリッドだ。
だから、彼女にはこの衣装を身に付ける資格があると思う。
フレイザーは人間だが、彼女がハイブリッドだということを知った上で、結婚することを決めたんだ。
だから、彼にもこの衣装を身に付ける資格があると思ったんだ。
……皆は俺とは違う意見か?」

アルディの低くはっきりした声が広場に響くと、まばらな拍手があちらこちらから始まり、やがてそれは広場全体に広がった。



「おめでとう!」

「おめでとう、ジャネット!」

様々な声が二人に祝福の言葉を投げかける。
二人はまだどこか戸惑いの残る顔を見合わせ…やがて、静かに微笑んだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

傭兵バスターズ

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
ファンタジー
カドカワBOOKSファンタジー長編コンテスト一次通過。この話は剣聖と絶世の美女が率いる傭兵団の冒険活劇になるはず……『傭兵バスターズ』世界中に怖れられている最悪の傭兵部隊だ。主人公のセドリックはそのボスの厄災女・キャロラインに賭けで負けて強引に参加させられた。バスターズは報酬のバカ高さでも有名で、その報酬額はなんと全財産の半分だった。依頼者が伯爵ならその伯爵の所有する全財産の半分、国なら所有する金銀財宝の半分もいるのだ! ただし、その力は絶大で国が滅びそうになっていても『傭兵バスターズ』にさえ頼めば救ってくれると言われていた。 転生者だったセドリックはこの世界のことも知らないし魔術も使えなかったが、努力して剣聖になっていた。しかし、不正を暴こうとして大司教に嵌められて冤罪を背負わされ左遷されていた。そこに来たこの傭兵団のボス・キャロラインに強引にその一員にされたのだ。このボスは絶世の美女でにもかかわらず、ついているあだ名はカラミティ(厄災女)、彼女の通った後は草木も残られないと怖れられているほどの魔術師なのだ。その厄災女にこき使われる事になったセドに未来はあるのか? 雑用して、ひっぱたかれたり散々な目に遭うセドだが、鎧を着たセドを見て唖然とするキャロラインの秘密とは…… ツンデレのヒロインと鈍感な剣聖の間はどうなる? 一癖も二癖もある傭兵バスターズの面々の活躍を楽しんでいただければと思います。 悪に立ち向かう? 傭兵バスターズの冒険活劇是非ともお楽しみ下さい。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

醜いアヒルの子は白鳥になれるのか?

梨香
ファンタジー
 捨て子のジュリアは、他の兄弟とは違いガリガリの発育不良だ。醜いアヒルの子と、からかわれて卑屈な性格になった。13歳で首都にメイドとして働きに出たジュリアは、精霊を見てぼんやりして首になるのを恐れて暮らす。そんな時、屋敷の若様が屋敷に帰って来てビックリする。「お前は精霊使いだ!」イオニア王国の伯爵令嬢だと言われても、ジュリアはなかなか信じられない。でも、祖国からお祖父様とお祖母様が迎えにきて……ハンサムな若様、チャーミングな王子様と別れて、内乱が続く祖国へ! 

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...