夢の硝子玉

ポーリシアの老女

１０４

「……違う？
 一体、何が違うって言うんだ！」

 「実は、俺は今まで何人かの獣人と出会ったことがある。
 彼らは、ただその数が少ないってだけで……まぁ、見た目も確かに違うけど……
でも、心は俺達と少しも変わらない。
悲しみも憎しみも愛情も……彼らと俺達には同じ心があるんだ。
だから、獣人の血は汚れてなんていない。
そんなことを言うのは止せ。」

 「同じ心だって！？
あんたに何がわかる！？
奴らは、子供を産ませるためだけに、母さんをかどわかしたんだぜ！」

ジャックはそう言って、怒りに燃えた瞳でフレイザーを睨みつけた。



 「……それは確かに悪いさ。
だけど、ジャック……おまえに酷いことをした奴らみたいに、人間にだって悪い奴はいるんだ。
人間だからどうとか、獣人だからどうだとかそんなことじゃないんだ。」

 「違う！あいつらは人間以下の人間だ！
獣なんだ！動物や魔物と同じような下っ端の存在なんだ！」

ジャックはさらに興奮した様子で、声を荒げた。



 「そんなことない！
獣人と人間、どっちが上なんて、そんなことは絶対にない！
……おまえがそんな風に考えていたとは意外だよ。
俺は詳しいことは知らないが、人間も獣人達には相当酷い事をして来たって話じゃないか。
だから、彼らは今も人里離れた山の中に隠れ住んでる。
俺……しばらく、獣人の村にいたことがあるんだ。
その間、皆、俺達によくしてくれた。
……俺は彼らが好きだ。
見た目のことなんて、少しも気にならない。」

 「あんたは……あんたは、なんでいつもそんな風なんだ！
なんで、そんな風になんでもかんでも良いように考える！？」

 「俺は、周りの評判や噂より、自分で感じたことを信じるだけだ。」

 「フレイザー……」

フレイザーは、ジャックの隣に腰を降ろし、彼女の手をきつく握り締めた。