夢の硝子玉

ルカ(聖夜月ルカ)

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ポーリシアの老女

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 「……退屈だな。
ジャック、どこか出掛けるか?」

 「……たまには部屋でのんびりしてるっていうのも良いんじゃないか?」

 「そうは言ってもなぁ……」



フレイザーは、ベッドに寝転がりながら、不満げな声で答える。



 「今日で三日目か……
そろそろエリオットも帰って来る頃かな?」

 「え……あ、あぁ……そうかもしれないな。」

ジャックは心の中の焦りを悟られないように、ゆっくりとそう答えた。



 (……早く話さなきゃ……
セリナのことだ。
そろそろ様子を見に来るかもしれない。
エリオットが戻って来るまでにフレイザーにあのことを話さなかったら、セリナに話されてしまう……
やっぱり、それはいやだ。
あのことは、自分で話したい……)



 「なぁ、ジャック……散歩にでも行かないか?
 少しくらいなら酒を飲んだって良い。
 酒場にジェイコブさんもいるかもしれない。」

そう言って、身体を起こしたフレイザーに、ジャックは思い詰めたような表情で声をかけた。



 「フ、フレイザー……
その前にちょっと話があるんだけど……」

 「……話?なんだ?」

 「実はな……」



 話そうと想う気持ちとは裏腹に、ジャックの喉には呪文でもかかったかのようになかなか声が出せず、鼓動が速さを増すばかりだった。



 「ジャック…何の話なんだ?」

 「……う、うん……実は……」



 早く話さなければと焦れば焦る程、何からどう話せば良いのかとジャックの頭の中はますます混乱の度合いを増した。



 「どうしたんだ?おかしな奴だなぁ…
じゃあ、散歩しながら聞くってのはどうだ?
だったら、ここよりも…………」

フレイザーの話の途中で、扉を叩く音が響き、二人は同時に扉の方に顔を向けた。



 「誰だろうな?」

そう言うのと同時に、フレイザーは立ち上がり扉に向かった。



 (まさか…セリナ?
それとも、エリオットが戻って来たのか?)



ジャックは、扉が開かれるのを息を殺してじっと見守る。



 「はい。」

フレイザーが扉を開けると、そこには見知らぬ若い男の顔があった。



 「す、すみません。
 僕、旅の者なんですが、ここは宿ですよね?
 宿の方はいらっしゃらないでしょうか?」

 「あれ?おやじさんいなかった?」

 「フレイザー、今の時間だったらもしかしたら買い物じゃないか?」

 「え……あぁ、そうかもしれないな。」

フレイザーは柱にかけられた時計を見上げ、頷いた。



 「すぐに戻って来ると思うよ。
 良かったら、ここで待ってたらどうだ?」

 「いえ、そんな……
僕、外で待ってます。」

 「遠慮すんなって。」

フレイザーは男の腕を引っ張り、部屋の中に引きずり込んだ。
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