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ポーリシアの老女
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*
「エリオット…いいかげんにおし。
あんた、朝早くから働きづめじゃないか。
少しは休まないと……」
「大丈夫だよ。
今夜の食事の準備をするためにも、今のうちに台所を片付けてしまいたいんだ。」
話してる間も手を止めないエリオットに、サンドラは苦笑した。
「あんたみたいな子は初めてだよ……」
目を細め、小さな声で呟いたサンドラの言葉にも気付かず、エリオットはかいがいしく働き続けた。
(なんとかしなきゃね…
こんな酷い生活させてられないよ。)
*
「エリオット…
手を洗って、せめてこれでもお食べ。」
しばらくして、サンドラは真っ赤なりんごに似た果物を手にエリオットに声をかけた。
「おばあさん……
もしかして、庭から取って来てくれたの?」
「私だってたまには陽の光を浴びなきゃ、虫がわいちまうからね。
……それに、エレの実は疲れを取るともいうから。」
少し照れ臭そうに俯くサンドラに、エリオットは胸の奥が熱くなるのを感じた。
「おばあさん、ありがとう!
……ボク、手を洗って来るよ。」
*
「美味しいね!
ボク、こんなの初めて食べたよ!」
「そうかい?
このあたりではよくある果物だよ。
ま、確かに今はエレが実る季節ではないんだけどね。」
「ボク、ここの出身じゃないから…」
「おやまぁ…それじゃあ、他所から来たのかい?」
エリオットは、台所からナイフをみつけだし、エレと呼ばれる果物を切って皿に並べた。
部屋中に甘酸っぱい香りが広がり、果汁がたっぷりの果肉はやわらかで、エリオットはすっかりその果物が気に入ってしまった。
「そうかい…記憶をねぇ…
じゃ、必ずしもイグラシアの出身だとも言えないね。」
「う、うん、まぁね。
それにしても、おばあさん、この果物…本当においしいね!
こんなに果汁が多いんだもの。ジュースにしてもおいしそうだね!」
「なるほど……そうかもしれないね。
果物を飲むなんて考えたことがなかったけど。
昔は、エレのケーキを良く焼いたもんだよ。
焼いてるうちから良いにおいが部屋一杯に広がってね…
それにね、エリオット……ほら、こうやると……」
サンドラはエレの果汁を手の甲に塗り付けた。
「あんたもやってみな。」
「う、うん…」
言われるままにエリオットも同じようにエレの果汁を塗りつける。
「わぁ……手がすべすべするね!」
「だろ?私みたいにしわしわになってしまったらもうどうにもならないが、あんたみたいに若い子だと顔や手がすべすべになるんだよ。」
「へぇ……エレって、すごい果物なんだね。」
エレのことを話すサンドラの顔には穏やかな笑みが宿り、昨日、玄関先で見た時の印象とは随分違うことに、エリオットは小さな戸惑いを感じていた。
「エリオット…いいかげんにおし。
あんた、朝早くから働きづめじゃないか。
少しは休まないと……」
「大丈夫だよ。
今夜の食事の準備をするためにも、今のうちに台所を片付けてしまいたいんだ。」
話してる間も手を止めないエリオットに、サンドラは苦笑した。
「あんたみたいな子は初めてだよ……」
目を細め、小さな声で呟いたサンドラの言葉にも気付かず、エリオットはかいがいしく働き続けた。
(なんとかしなきゃね…
こんな酷い生活させてられないよ。)
*
「エリオット…
手を洗って、せめてこれでもお食べ。」
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「おばあさん……
もしかして、庭から取って来てくれたの?」
「私だってたまには陽の光を浴びなきゃ、虫がわいちまうからね。
……それに、エレの実は疲れを取るともいうから。」
少し照れ臭そうに俯くサンドラに、エリオットは胸の奥が熱くなるのを感じた。
「おばあさん、ありがとう!
……ボク、手を洗って来るよ。」
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「美味しいね!
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「そうかい?
このあたりではよくある果物だよ。
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「ボク、ここの出身じゃないから…」
「おやまぁ…それじゃあ、他所から来たのかい?」
エリオットは、台所からナイフをみつけだし、エレと呼ばれる果物を切って皿に並べた。
部屋中に甘酸っぱい香りが広がり、果汁がたっぷりの果肉はやわらかで、エリオットはすっかりその果物が気に入ってしまった。
「そうかい…記憶をねぇ…
じゃ、必ずしもイグラシアの出身だとも言えないね。」
「う、うん、まぁね。
それにしても、おばあさん、この果物…本当においしいね!
こんなに果汁が多いんだもの。ジュースにしてもおいしそうだね!」
「なるほど……そうかもしれないね。
果物を飲むなんて考えたことがなかったけど。
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それにね、エリオット……ほら、こうやると……」
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「あんたもやってみな。」
「う、うん…」
言われるままにエリオットも同じようにエレの果汁を塗りつける。
「わぁ……手がすべすべするね!」
「だろ?私みたいにしわしわになってしまったらもうどうにもならないが、あんたみたいに若い子だと顔や手がすべすべになるんだよ。」
「へぇ……エレって、すごい果物なんだね。」
エレのことを話すサンドラの顔には穏やかな笑みが宿り、昨日、玄関先で見た時の印象とは随分違うことに、エリオットは小さな戸惑いを感じていた。
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