夢の硝子玉

ルカ(聖夜月ルカ)

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ポーリシアの老女

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「ほら…この爪、おかしいでしょ?
 剥がされたの…
最初は母様ばかりが暴力を受けてたんだけど、母様が石の在り処を探すのを拒み続けていたら、今度は私が…
奴らは気付いたのよ。
 母様は自分が暴力を受けるより、娘の私をいたぶる方が言うことを聞くって…」

 「なんて酷いことをっ!」

 「だから母様は石を探すことに協力を始めたんだけど、石はなかなかみつからなかった。
そしたら、奴らは母様がわざとみつけないんだと思ってまた私に暴力を……」

 「セリナ……本当に苦労したんだな…」

ジャックはいびつになったセリナの爪から視線をはずさず、静かな声でそう呟いた。



 「……仕方がなかったのよ。
 私ね…こんな風に思ってるの。
 誰にでもたくさんの記憶があるけれど、どんなに過酷な人生を送って来た人にも楽しかったり嬉しかった思い出が少しはあるはずよ。
それを大切にしてたらそれだけで良いと思うの。
いやな記憶は忘れられれば一番だけど、忘れることなんて出来やしないわ。
だけど、手放すことならきっと出来ると思うのよ。
 『あれはもう過ぎ去ったことだ』って、心の中から手放してしまうの。
そしたら、不思議なことに、だんだんそれが他人事みたいに思えてくるの。
 私はその方法を思いついてから、ずっとそうやって生きて来たわ。
そうしないと苦しくて心が潰されそうになったから…
馬鹿みたいだって思うかもしれないけど、意外と効果はあるものよ。
だから、ジャック……あなたもそうしなさい。
あんなことはもう過ぎたことだわ。
 今のあなたには必要のない記憶よ。」

 「……セリナ……ありがとう。
 俺……少しずつそう考えてみるよ。
…………セリナ?……どうかしたのか!?」

セリナの表情が変わったことにジャックは気付き、それを訊ねた。



 「あなたがこんなに素直なことを言うなんて…そりゃあびっくりするわよ。」

 「酷いなぁ…それじゃあ、まるで俺がひねくれ者みたいじゃないか。」

 「その通りでしょ!?」

 「セリナ!」

 再び上がった二人の明るい笑い声が、あたりに響き渡った。
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