夢の硝子玉

ポーリシアの老女

４８

「ジャック、話してちょうだい。
あなたの抱えているものを……」

セリナはその場に腰を下ろすと同時に、ジャックに問いかける。



 「お、俺は、なにも……」

ジャックはそう言って、セリナから顔を背けた。



 「まだそんなことを言うの！？
そりゃあ、私には何も出来ないかもしれないわ。
でも…多分、あなたの気持ちを理解することは出来る……
だって、私も普通じゃない生き方をして来たんですもの。
 怖い人達から逃げ隠れする毎日…気が休まる日なんてなかった…そんな日がずっと続いてそしてついに捕まって……」

 話すうちにだんだんと声が震え、そこまで言うとセリナは唇を噛み締め、言葉は途切れた。



 「セリナ…大丈夫か？」

 「……大丈夫よ。
そんなことより、ジャック……私ね、あなたに少し夢を賭けてるの。」

 「夢……？」

 思いも掛けなかったセリナの話に、ジャックは向き直りその言葉を繰り返した。



 「ええ…あなたがフレイザーともっと仲良くなって、いずれは結婚して幸せになってくれること。」

 「やめろよ！俺はそんなこと……」

 「ジャック……
知ってる？石の巫女は結婚は出来ないのよ。」

 「えっ…！？」



 話を遮ったセリナの声は、諦めとは違う何かとても強い気持ちのこもったものだった。




 「セリナ……それはどういうことなんだ？」

 「……石の巫女は出来るだけその力を継承しないといけない。
だけど、誰かを本気で好きになっちゃいけないの。
だから、勝手に決められた愛情も何もない者と顔も見えない暗闇の中で……
相手にも巫女の顔は見られないためにね。
それで身篭らなかったらまた別の人……だから、私は父を知らない。
 母様ももちろん相手のことを知らないわ。」

 「ば、馬鹿な……」

ジャックの顔から血の気が引き、落ち付かない視線でセリナをみつめた。