夢の硝子玉

ポーリシアの老女

２１

「だ、だって、あの時は無我夢中で……
 ……でも、今、考えてみるとあれは俺の本心だったんだと思う。
ジャック……俺、やっぱりどう考えてもおまえのことが好きだと思う。
 結婚はまだ早いかもしれないけど……俺とつきあってくれ！」

 突然の展開に、セリナとダルシャは息を飲んで二人の様子を見守った。



 「ば…馬鹿なことを言わないでくれ。
あんたは、セリナ達におかしな風に洗脳されてるだけなんだ。
 俺のことは同情してるだけ。
ただ、それだけの…」

 「ジャック…素直にならなきゃ…
フレイザーは、あなたのことが好きだって言ってるのよ。
あなただって、フレイザーのことが好きなんでしょ！？」

 「セリナ！もう余計なことはやめてくれ！
 俺は、フレイザーに何も求めてないって何度言ったらわかるんだ！」

 「いいえ、やめないわ！
あなたはずっと苦労して来た…
もう、いい加減、幸せにならなきゃ…！
フレイザーを信じて、幸せになるのよ！」

 激しい口調で叫ぶジャックに、セリナはそれに負けない程気迫のこもった声を返す。



 「そんなこと無理なんだ…！
どうしてわかってくれない！？
 俺は、幸せになれるような人間じゃないんだ！」

ジャックは、ぽろぽろと大粒の涙を零しながら、唇を噛み締めた。
 身体は小刻みに震え、握り締めた拳は、ジャックがそれでも懸命に感情を押さえていることを示していた。



 「ジャック……俺はおまえに何があってもおまえに対する気持ちは変わらない。」

 「そうよ、ジャック。
フレイザーは信頼出来る人よ。
あなたのすべてを受け入れてくれるわ。」

 「頼むから…もう、やめてくれ…！
 俺は…汚れてるんだ…
生きていちゃいけない人間なんだ！」

そう言って子供のように激しく泣き出したジャックに、誰もが驚き、声さえかけられなかった。



 「セリナ…フレイザー…
後のことは私に任せてくれ。」

 「でも……」

 「頼む。」

ダルシャに促され、二人は後ろ髪をひかれる想いで部屋を後にした。