夢の硝子玉

ルカ(聖夜月ルカ)

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四つ目の大陸

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「……ジャック、答えたくなければ答えなくて良いんだけど…
 ……おまえ、家族はいないのか?」

 「エリオットから聞いてないのか?」

 「え?エリオットにそんな話したのか?」

 「……そういうわけじゃないんだけど……聞いてないのか。
……俺の家族は…もういないんだ。」

 「そうか…余計なこと聞いてすまなかったな。」

ジャックは黙ったままで首を振り…そして、ぽつりぽつりと自分の生い立ちを話し始めた。

 詳しいことは話さなかったが、ジャックが父親を激しく憎んでいることがその口ぶりから感じられた。
ジャックは、山の中の炭焼き小屋で血の繋がらない老人と暮らしていたという事だった。



 「炭焼き小屋の爺さんはとても親切な人だったよ。
 俺の母親は、俺がまだ小さな頃に死んだ。
 記憶もほとんどないんだ。
それからはその爺さんが俺を育ててくれた。
でも、その爺さんも俺が12の時に死んだんだ…」

 「それじゃ、おまえはそんな子供の頃から一人で生きて来たのか?
……大変だったな。」

 「大変なことなんてなかった…
ただ…どうしようもなく寂しかった。
でも、町に出るのは怖い…
何年も一人で山の中で暮らし…寂しさに絶えきれなくなって町に出た。
……それが間違いだったんだ。
あのまま、山の中にいたらあんなことには…」

ジャックは何か恐ろしい記憶を思い出したかのように、両手で顔を覆ってうな垂れた。



 「どうしたんだ?
 町で何があったんだ?」

 「……なんでもない…
なんでもないんだ…」

それがよほど辛い出来事だということは、ジャックの様子を見れば容易に推測出来、フレイザーはうかつに質問してしまったことに心を痛めた。



 「ジャック…言いたくないことは言わなくても良い。
でも…さっきも言った通り、おまえはもう一人じゃないんだ。
セリナだってエリオットだって、あのラスターやダルシャ、それに俺だっていろいろとあるんだ。
セリナやエリオットのことはおまえも聞いただろう?
 起きてしまったことはもうどうしようもない。
 誰にもそれを塗り替えることは出来ない。
だけど、そのことで傷付いた心はいつかきっと治るんだ。
 話すだけで心が軽くなるってこともある。
もしも、背負ってるのが辛いと思ったら、いつでも俺達に話せよ。」

ジャックはフレイザーの話を黙ってじっと聞き入り、そして小さく頷く。



 「フレイザー…俺にはまだすべてを話す勇気がない。
……だけど、話せる時が来たらきっと話す。
フレイザーに最初に話すから…」

 「あぁ、わかった。
……それより、辛い事思い出させてごめんな。」

ジャックは、その言葉に小さく首を振った。

 
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