夢の硝子玉

四つ目の大陸

３２

＊



 「セ、セリナ！
あんた、一体、何やってるんだよ！」

ジャックはそう言うと、空気を求める魚のように口をぱくぱくと動かした。



 「何って…今、言った通り、事情を聞いて来ただけよ。
 大丈夫だってば！
 詳しい事は何も言ってないんだから。
エリオットはあなたが女の子だってことも知らないんだし、何も気付いてないわ。
だからね、さっきのことはあなたの勘違いだったの。
エリオットとフレイザーは、なんでもないのよ。」

 「だ、だから！
 俺は、二人のことなんてなんとも思ってないって言ってるだろ！！
お、俺は…フレイザーのことなんて何も…」

ジャックは、それだけ言うと顔を赤らめ唇を噛み締めて俯いた。



 「本当にあなたは強情なんだから…
 ……まぁ、良いわ。
とにかく、早くフレイザーの所に行ったら？
……彼のことが気になるんでしょ？」

 「あんたこそしつこいぞ！
 俺は……あいつのことなんて気にならない！
 病室にはエリオットもいるんだし、わざわざ俺が行くことなんてないしな！
 今夜は酒でも飲んでゆっくりするんだ。」

ジャックは、セリナから顔を背け、暮れかかった窓の外をぼんやりとみつめる。



 「……そうよね。
フレイザーにはエリオットがついてるんですものね。
あの二人、今はなんでもなくても、看病してもらってるうちに好きになることもあるかもしれないわねぇ…
弱ってる時ってけっこうそういうことがあるのよね。
……じゃ、あなたは今夜は行かないのね。
わかったわ。
じゃ、皆でゆっくりしましょう。」



それからしばらくして夕食の誘いに行くと、部屋にジャックの姿はなく、セリナはそれを知って肩をすくめて微笑んだ。