夢の硝子玉

ルカ(聖夜月ルカ)

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 「じゃあ、ここでしばらく待っててくれよ。
すぐに戻って来るからな。」

 二人がゾラーシュに着いたのはもう夜も更けた頃だった。
ジャックは町外れの廃屋に、縄をかけ、猿ぐつわを噛ませたセリナを隠すと、金を受け取りに宿屋へ向かった。



 「あの…俺はジャックっていうもんなんだが…」

 「あぁ、ジャックさん!
お話はダルシャさんから聞いてますよ。
さぁ、どうぞ中へ…」

 宿の主人は、奥の食堂にジャックを招いた。



 「俺…ちょっと急いでるんだけど…」

 「急いでる?
こんな夜更けにどこか行かれるんですか?」

 「い…いや、そうじゃないけど…今日は歩きづめで疲れてるから早く横になりたいんだ。」

ジャックは咄嗟に口から飛び出した嘘に安堵した。



 「そうですか…ですが、ダルシャさんから、もしもジャックさんが来られたら丁重にもてなすように言われておりますので…
そうだ!ジャックさん、お食事はおすみですか?」

 「え……いや、まだだが…」

 「では、今すぐにご用意させていただきます。
 待ってて下さいね。」

 朝からほとんど休みなしに歩き続けて来たジャックは、食事という言葉を聞いた瞬間に、今まで押し隠していた食欲を痛烈に思い出し、本当のことを答えてしまっていた。
 罠でないかとの疑念はまだ晴れたわけではない。
 危険を冒さないためにも、金を受け取ったらすぐに戻る気ではいたが、あまりに慌てた様子を見せるのも不審に思われるかと考えたことと、何よりも強い本能の欲求に従って、ジャックは食事を採ることに決めた。
 時間が遅かったこともあり、食堂には泊り客の姿がなかったことも、ジャックを少し安心させた。



 「お待ち遠様でした。
たいしたものはありませんが、どうぞ。」

セリナに対し、少しばかりの罪悪感を感じながらも、ジャックは久し振りの温かい食事を堪能した。
それは、いつもの缶詰や固くなったパンとは比べ物にならないもので、ジャックの張り詰めた気持ちもわずかに解れるほどだった。



 「ジャックさん、ダルシャさんがあなたが来られたらこれをお渡しするようにとおっしゃって…」

 宿の主人が差し出したのは、けっこうな重みのある皮袋だった。



 (こんなに…!
これだけあれば、セリナと船に乗るにも十分だ。)

ジャックは受け取った皮袋の重みに、俯いて微笑んだ。
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