夢の硝子玉

再会

２０

「……今日は間に合わなかったけど、明日は久し振りに朝からクッキーを焼くわね。
あなた達は明日ここを発つんでしょう？
 旅先で食べてちょうだいね。」

 「ありがとう、おばあさん。
……ねぇ、おばあさん…
さっきのお話なんだけど……あれでおしまいなの？
なにかまだ続きがあるんじゃないの？」

 「……どうしてそう思うの？」

 「だって…おばあさんは、このお話をして下さる時、どこか幸せそうな顔をなさってたもの…
でも、今のお話は……」

その言葉に、老婆はにっこりと微笑んだ。



 「あなたはとても勘が良いのね…
その通りよ。
 話そうかどうしようか、少し迷ってたんだけど…」

サーバーにわいたばかりのお湯を注ぎこむと、あたりには良い香りが広がった。
 老婆はそれをカップに注ぎ入れ、セリナの前に差し出した。



 「町に落ちた星は不幸の星だから、近寄ったりしたら不幸になる…
この町ではそう言われててね。
 誰も近寄る者はなかったの。
だけど…私はずっとその星の所に通ったわ。
 最近では足腰が悪くなって、山に登ることが出来なくなってしまったけど、そうなるまでは毎月登ってたのよ。
……おかしいでしょ？」

 老婆はそう言いながら、悪戯っぽい笑みを浮かべる。



 「どうして？
おばあさんはどうしてそんな星の所へ行ったの？
 不幸になるのが怖くなかったの？」

 老婆は首を振りながら再び微笑んだ。



 「ねぇ？あなたには私が不幸に見えるかしら？
こんな片田舎で、めったに来ることのないお客さんを待ちながら宿屋を続けてるのは不幸なことかしら？」

 今度は、セリナが首を振る。



 「いいえ…おばあさんはとてもお幸せそうに見えるわ。
……でも、どうして、おばあさんは不幸の星が怖くなかったの？
 皆が嫌う不幸の星のことが…」

 「それはね…私の母親の聞かせてくれたお話のおかげなのよ。
 皆が、あの星のことを悪く言う中、私の母だけは違うお話をしてくれたの…」

 「おばあさん、それはどんなお話なの？」