夢の硝子玉

ルカ(聖夜月ルカ)

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それぞれの旅立ち

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 「う、う~ん…」

 「お、気が付いたか。
 気分はどうだ?」

ゆっくりと目を開いたエリオットは、まだぼんやりとした思考の中で天井をみつめたまま何も答えなかった。



 「足の傷は痛くないか?」

そう言いながらエリオットの傍に近付いて来たのは、顔中ひげだらけの中年の男だった。



 「傷……?
あ……あなたは!?」

 男の顔を見て、エリオットは飛び起き身を固くした。



 「なんだ、忘れちまったのか?
ま、心配するこたぁない。
じきに思い出すさ。」

 「ぼ…僕…一体……」

 「僕?
おかしなことを言う嬢ちゃんだな。
 良いか、あんたは魔物の山で、魔物達に囲まれていた。
それを俺が助けたってわけだ。
あんたみたいに運の良い子はそうそういないぜ。
なんせあの山に入る奴なんて、めったにいないからな。
 俺だって、何ヶ月かに一度しか入らねぇ。
たまたまそんな時に出くわすなんて、幸運の女神様に護られてるとしか思えねぇな。
やっぱり、あんたもあの山のあのきのこを取りに行ってたのか?」

 「きのこ…?」

 粗雑な言葉遣いとがさつな声とは裏腹に、男の顔は良く見るとどこか愛嬌のあるもので、そのことがエリオットの気持ちを緩ませた。
しかし、男の話はエリオットにはまるで覚えのないことだった。



 「なんだ?すっかり忘れちまったのか?
じゃ、自分の名前はどうだ?」

その質問にエリオットはしばらく考え、やがてその大きな瞳にはうっすらと涙が浮かぶ。



 「ぼ…僕…どうしたんだろ…
何も…何も…」

 途切れ途切れにそれだけ話すと、エリオットの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。



 「あぁ、あぁ…泣かなくても大丈夫だ!
おまえさんはな、イラズルの息にやられたんだ。
イラズルの息は神経に障るから記憶をなくしちまったんだな。
おまえさんは、あれから三日も眠ってたんだぜ。
それに、ジュノーに足を噛まれてな。
あ、安心しな。
ジュノーの毒はたいしたことはねぇ。
ただ、牙が鋭いから、当分は痛いかもしれないが、なぁに、心配することはねぇ。
すぐに良くなるさ。」

 中年の男はそう言うと、大きな手でエリオットの背中を叩き、豪快に笑った。



 「あ、俺はアンガスってんだ。
よろしくな。」

 差し出された大きな手に、エリオットはおずおずと片手を差し出し、二人は握手を交わす。



 「じゃ、何か食べるものを作ってくるから、おまえさんはもう少し寝てな。」

 「ぼ…僕……」

エリオットの小さな声には気付くことなく、アンガスはそのまま歩き去って行った。

 
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