165 / 802
それぞれの旅立ち
58
しおりを挟む
*
「う、う~ん…」
「お、気が付いたか。
気分はどうだ?」
ゆっくりと目を開いたエリオットは、まだぼんやりとした思考の中で天井をみつめたまま何も答えなかった。
「足の傷は痛くないか?」
そう言いながらエリオットの傍に近付いて来たのは、顔中ひげだらけの中年の男だった。
「傷……?
あ……あなたは!?」
男の顔を見て、エリオットは飛び起き身を固くした。
「なんだ、忘れちまったのか?
ま、心配するこたぁない。
じきに思い出すさ。」
「ぼ…僕…一体……」
「僕?
おかしなことを言う嬢ちゃんだな。
良いか、あんたは魔物の山で、魔物達に囲まれていた。
それを俺が助けたってわけだ。
あんたみたいに運の良い子はそうそういないぜ。
なんせあの山に入る奴なんて、めったにいないからな。
俺だって、何ヶ月かに一度しか入らねぇ。
たまたまそんな時に出くわすなんて、幸運の女神様に護られてるとしか思えねぇな。
やっぱり、あんたもあの山のあのきのこを取りに行ってたのか?」
「きのこ…?」
粗雑な言葉遣いとがさつな声とは裏腹に、男の顔は良く見るとどこか愛嬌のあるもので、そのことがエリオットの気持ちを緩ませた。
しかし、男の話はエリオットにはまるで覚えのないことだった。
「なんだ?すっかり忘れちまったのか?
じゃ、自分の名前はどうだ?」
その質問にエリオットはしばらく考え、やがてその大きな瞳にはうっすらと涙が浮かぶ。
「ぼ…僕…どうしたんだろ…
何も…何も…」
途切れ途切れにそれだけ話すと、エリオットの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「あぁ、あぁ…泣かなくても大丈夫だ!
おまえさんはな、イラズルの息にやられたんだ。
イラズルの息は神経に障るから記憶をなくしちまったんだな。
おまえさんは、あれから三日も眠ってたんだぜ。
それに、ジュノーに足を噛まれてな。
あ、安心しな。
ジュノーの毒はたいしたことはねぇ。
ただ、牙が鋭いから、当分は痛いかもしれないが、なぁに、心配することはねぇ。
すぐに良くなるさ。」
中年の男はそう言うと、大きな手でエリオットの背中を叩き、豪快に笑った。
「あ、俺はアンガスってんだ。
よろしくな。」
差し出された大きな手に、エリオットはおずおずと片手を差し出し、二人は握手を交わす。
「じゃ、何か食べるものを作ってくるから、おまえさんはもう少し寝てな。」
「ぼ…僕……」
エリオットの小さな声には気付くことなく、アンガスはそのまま歩き去って行った。
「う、う~ん…」
「お、気が付いたか。
気分はどうだ?」
ゆっくりと目を開いたエリオットは、まだぼんやりとした思考の中で天井をみつめたまま何も答えなかった。
「足の傷は痛くないか?」
そう言いながらエリオットの傍に近付いて来たのは、顔中ひげだらけの中年の男だった。
「傷……?
あ……あなたは!?」
男の顔を見て、エリオットは飛び起き身を固くした。
「なんだ、忘れちまったのか?
ま、心配するこたぁない。
じきに思い出すさ。」
「ぼ…僕…一体……」
「僕?
おかしなことを言う嬢ちゃんだな。
良いか、あんたは魔物の山で、魔物達に囲まれていた。
それを俺が助けたってわけだ。
あんたみたいに運の良い子はそうそういないぜ。
なんせあの山に入る奴なんて、めったにいないからな。
俺だって、何ヶ月かに一度しか入らねぇ。
たまたまそんな時に出くわすなんて、幸運の女神様に護られてるとしか思えねぇな。
やっぱり、あんたもあの山のあのきのこを取りに行ってたのか?」
「きのこ…?」
粗雑な言葉遣いとがさつな声とは裏腹に、男の顔は良く見るとどこか愛嬌のあるもので、そのことがエリオットの気持ちを緩ませた。
しかし、男の話はエリオットにはまるで覚えのないことだった。
「なんだ?すっかり忘れちまったのか?
じゃ、自分の名前はどうだ?」
その質問にエリオットはしばらく考え、やがてその大きな瞳にはうっすらと涙が浮かぶ。
「ぼ…僕…どうしたんだろ…
何も…何も…」
途切れ途切れにそれだけ話すと、エリオットの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「あぁ、あぁ…泣かなくても大丈夫だ!
おまえさんはな、イラズルの息にやられたんだ。
イラズルの息は神経に障るから記憶をなくしちまったんだな。
おまえさんは、あれから三日も眠ってたんだぜ。
それに、ジュノーに足を噛まれてな。
あ、安心しな。
ジュノーの毒はたいしたことはねぇ。
ただ、牙が鋭いから、当分は痛いかもしれないが、なぁに、心配することはねぇ。
すぐに良くなるさ。」
中年の男はそう言うと、大きな手でエリオットの背中を叩き、豪快に笑った。
「あ、俺はアンガスってんだ。
よろしくな。」
差し出された大きな手に、エリオットはおずおずと片手を差し出し、二人は握手を交わす。
「じゃ、何か食べるものを作ってくるから、おまえさんはもう少し寝てな。」
「ぼ…僕……」
エリオットの小さな声には気付くことなく、アンガスはそのまま歩き去って行った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
お嬢様は謙虚堅実!? ~生まれながらにカリスマが限界突破していた少女と偽神に反逆する者達~
猫野 にくきゅう
ファンタジー
お嬢様は謙虚堅実!?
最悪な人生だった。
それ以外に、言いようのない人生が終わった。
私は高校一年生の冬に、死んだ。
そして────
転生の女神と出会い、異世界に転生する。
今度こそ、まともな人生を歩めますように……。
そう祈りながら────
異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん
夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。
のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ
あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」
学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。
家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。
しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。
これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。
「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」
王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。
どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。
こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。
一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。
なろう・カクヨムにも投稿
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる