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それぞれの旅立ち
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「なるほど…そういうことでしたか。」
頬を染め、グラスを傾けるダルシャは上機嫌で微笑んだ。
「チェッ、なんでこう貴族ってのはワインが好きなのかね。
こんなんじゃ、なかなか酔いがまわらないぜ。」
ラスターは愚痴をこぼしながら、ワイングラスを一気にあおった。
「君は本当にもったいない飲み方をするんだな。
この芳醇な香り…めったに出会えるもんじゃないぞ。
もっとゆっくりとこう…」
「俺は酒に良い香りなんか求めたことはない。
酒なんて、酔えれば良いんだ。」
そう言いながら、ラスターは、無造作にワインをグラスに注ぎ入れた。
ダルシャはその所作を疎ましげに見つめる。
このあたりは、スエルシアでも有数のレープル畑が広がる地帯だった。
こんな田舎町に宿屋があるのも、ここまでの道が良いのもそのためだった。
ワインを買い付けに遠くからやって来る者も多いのだという。
久しぶりに上質なワインを口にしたダルシャは、先程の不快な出来事もすっかり忘れるほどの心地良さを感じていた。
魔物が出るのはこの町から少し先のあたりからだということだった。
特に強暴なものが出るわけではないが、数が多いため、そう油断出来るわけでもないという。
「剣士様がいらっしゃるなら、多分、大丈夫だと思いますよ。
それなりに力のある男が数人いれば、まぁ、めったなことはありません。
……ですが、お客様達は女の子がお二人に、男の子がお一人ですな…
誰かが通るのを待って、それからその者達と一緒に出発されてはいかがです?」
「は?誰が男の子だって?
俺は一人前の男じゃないっていうのか!」
「ラスター、やめて!」
不意に立ちあがったラスターの腕をセリナが引き止めた。
「俺はこんな貴族のお坊ちゃまとは違い、スラムで生まれて暮らして来たんだ。
それなりに武器だって扱える。
そんじょそこらのガキ共と一緒にするな!」
「……申し訳ありません。」
宿の者は頭を下げ、そそくさとその場を立ち去った。
「……君は、悪い酒だな。
酒というものは、楽しくなるために飲まねば意味がない。
……後は、ここに美しい女性でもいれば、最高だったのだがなぁ…」
うっとりとした表情のダルシャの視線が、宙をさ迷う。
「なるほど…そういうことでしたか。」
頬を染め、グラスを傾けるダルシャは上機嫌で微笑んだ。
「チェッ、なんでこう貴族ってのはワインが好きなのかね。
こんなんじゃ、なかなか酔いがまわらないぜ。」
ラスターは愚痴をこぼしながら、ワイングラスを一気にあおった。
「君は本当にもったいない飲み方をするんだな。
この芳醇な香り…めったに出会えるもんじゃないぞ。
もっとゆっくりとこう…」
「俺は酒に良い香りなんか求めたことはない。
酒なんて、酔えれば良いんだ。」
そう言いながら、ラスターは、無造作にワインをグラスに注ぎ入れた。
ダルシャはその所作を疎ましげに見つめる。
このあたりは、スエルシアでも有数のレープル畑が広がる地帯だった。
こんな田舎町に宿屋があるのも、ここまでの道が良いのもそのためだった。
ワインを買い付けに遠くからやって来る者も多いのだという。
久しぶりに上質なワインを口にしたダルシャは、先程の不快な出来事もすっかり忘れるほどの心地良さを感じていた。
魔物が出るのはこの町から少し先のあたりからだということだった。
特に強暴なものが出るわけではないが、数が多いため、そう油断出来るわけでもないという。
「剣士様がいらっしゃるなら、多分、大丈夫だと思いますよ。
それなりに力のある男が数人いれば、まぁ、めったなことはありません。
……ですが、お客様達は女の子がお二人に、男の子がお一人ですな…
誰かが通るのを待って、それからその者達と一緒に出発されてはいかがです?」
「は?誰が男の子だって?
俺は一人前の男じゃないっていうのか!」
「ラスター、やめて!」
不意に立ちあがったラスターの腕をセリナが引き止めた。
「俺はこんな貴族のお坊ちゃまとは違い、スラムで生まれて暮らして来たんだ。
それなりに武器だって扱える。
そんじょそこらのガキ共と一緒にするな!」
「……申し訳ありません。」
宿の者は頭を下げ、そそくさとその場を立ち去った。
「……君は、悪い酒だな。
酒というものは、楽しくなるために飲まねば意味がない。
……後は、ここに美しい女性でもいれば、最高だったのだがなぁ…」
うっとりとした表情のダルシャの視線が、宙をさ迷う。
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