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わた菓子
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(やっぱり来なきゃ良かった…)
彼氏と行く初めての夏祭り。
正直いって気乗りはしなかったけど、まだ付き合ってそう長くないから、つい気を遣って断れなかった。
「ね、焼きそば食べようか?」
「うん、そうだね。」
お腹はすいてはなかったけれど、食べられないわけでもないから、曖昧に返事をする。
「そこで食べよう。」
粗末なテーブルに着いた。
焼きたての焼きそばは、思っていたより美味しそうに見えた。
そのせいか、あっという間にぺろりと完食してしまった。
食べて暑さが増したせいか、
彼氏は、ビールを飲んでいた。
私はお酒が飲めないから、持っていたペットボトルのお茶を飲む。
お茶はもう生温くなってたけど、ないよりはマシだ。
「次、どこ行こうか。
あ、俺、スーパーボールやりたい。
スーパーボール得意なんだ。」
雑踏の中をはぐれないようにゆっくりと進むと、彼の言ってたスーパーボール掬いがあった。
色とりどりの小さなボールが水槽の中にぎっしり入ってる。
金魚すくいのポイで、ボールを掬うんだ。
金魚を追いかけまわすよりは、まだ良い。
「あ~~……」
彼が情けない声を出す。
三つ掬っただけでポイが破れたんだ。
「もう一回やる!」
彼はまたボールを掬う。
今度もまた三つ掬っただけでポイは破れた。
隣にいた小さな男の子は、もう数え切れない程掬ってる。
「だめだ、ビール飲んだから集中力がなくなってる。」
「じゃあ、違うのやろうよ。
あ、盆踊り見に行こうよ。」
このままやってても、お金の無駄だから、そう言って素早くその場から離れた。
櫓の上には太鼓、周りには提灯が巡らされ、みんなが輪になって踊ってた。
(あぁ、あの時も確か、太鼓の音が聞こえてた…)
ふと思い出した昔の記憶に、ちくりと胸が痛んだ。
「ねぇ、暑いからかき氷食べようよ。」
「そうだな。」
私はいちご、彼はメロン。
彼の唇と舌は緑色に染まった。
きっと、私は赤くなってるはず。
でも、かき氷のおかげで、暑さは少しマシになった。
「あ、綿菓子、買おう。」
「いらない。」
「なんで?」
「嫌いなの。もう帰ろうよ。」
私は彼の手を引っ張って、祭りの場所から離れた。
だいぶ離れてもまだ太鼓の音が聞こえる。
駅まで行って、ようやく太鼓の音は聞こえなくなって、私の気持ちも落ち着いた。
「どうかしたの?」
「……人に酔ったみたい。」
適当な言い訳をする。
私は夏祭りの日に親に捨てられた。
私に綿菓子を買い与え、私の親はいなくなった。
私は置き去りにされたのだ。
だから、綿菓子が嫌い…
そんなことはまだ言えない。
もしも、付き合いが長く続いたら…結婚でもしたら、話せるかもしれないけど、今はまだ無理だ。
「大丈夫?」
「うん。」
電車の席に並んで座る。
気遣ってくれる彼に、私は愛想笑いさえ返せなかった。
彼氏と行く初めての夏祭り。
正直いって気乗りはしなかったけど、まだ付き合ってそう長くないから、つい気を遣って断れなかった。
「ね、焼きそば食べようか?」
「うん、そうだね。」
お腹はすいてはなかったけれど、食べられないわけでもないから、曖昧に返事をする。
「そこで食べよう。」
粗末なテーブルに着いた。
焼きたての焼きそばは、思っていたより美味しそうに見えた。
そのせいか、あっという間にぺろりと完食してしまった。
食べて暑さが増したせいか、
彼氏は、ビールを飲んでいた。
私はお酒が飲めないから、持っていたペットボトルのお茶を飲む。
お茶はもう生温くなってたけど、ないよりはマシだ。
「次、どこ行こうか。
あ、俺、スーパーボールやりたい。
スーパーボール得意なんだ。」
雑踏の中をはぐれないようにゆっくりと進むと、彼の言ってたスーパーボール掬いがあった。
色とりどりの小さなボールが水槽の中にぎっしり入ってる。
金魚すくいのポイで、ボールを掬うんだ。
金魚を追いかけまわすよりは、まだ良い。
「あ~~……」
彼が情けない声を出す。
三つ掬っただけでポイが破れたんだ。
「もう一回やる!」
彼はまたボールを掬う。
今度もまた三つ掬っただけでポイは破れた。
隣にいた小さな男の子は、もう数え切れない程掬ってる。
「だめだ、ビール飲んだから集中力がなくなってる。」
「じゃあ、違うのやろうよ。
あ、盆踊り見に行こうよ。」
このままやってても、お金の無駄だから、そう言って素早くその場から離れた。
櫓の上には太鼓、周りには提灯が巡らされ、みんなが輪になって踊ってた。
(あぁ、あの時も確か、太鼓の音が聞こえてた…)
ふと思い出した昔の記憶に、ちくりと胸が痛んだ。
「ねぇ、暑いからかき氷食べようよ。」
「そうだな。」
私はいちご、彼はメロン。
彼の唇と舌は緑色に染まった。
きっと、私は赤くなってるはず。
でも、かき氷のおかげで、暑さは少しマシになった。
「あ、綿菓子、買おう。」
「いらない。」
「なんで?」
「嫌いなの。もう帰ろうよ。」
私は彼の手を引っ張って、祭りの場所から離れた。
だいぶ離れてもまだ太鼓の音が聞こえる。
駅まで行って、ようやく太鼓の音は聞こえなくなって、私の気持ちも落ち着いた。
「どうかしたの?」
「……人に酔ったみたい。」
適当な言い訳をする。
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私に綿菓子を買い与え、私の親はいなくなった。
私は置き去りにされたのだ。
だから、綿菓子が嫌い…
そんなことはまだ言えない。
もしも、付き合いが長く続いたら…結婚でもしたら、話せるかもしれないけど、今はまだ無理だ。
「大丈夫?」
「うん。」
電車の席に並んで座る。
気遣ってくれる彼に、私は愛想笑いさえ返せなかった。
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