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メンチカツ

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「パパ…ごめんなさい。」

父を迎えた玄関先で、敦は大粒の涙をこぼした。



「敦、どうした?」

「ぼ、僕ね、僕ね……」

敦の声はなかなか言葉にならない。
敦は、父親の腕を取り、キッチンに向かった。



「うわぁ…なんだ、これ?」

「ご、ごめんなさい!」

散らかった台所で、敦は火が付いたように激しく泣き出した。







「……落ち着いたか?」

敦は小さく頷く。



「メンチカツ、作ろうとしてくれたんだよな?」

敦はまたさっきと同じように頷いた。



「じゃあ、今から一緒に作ろう。」

「う、うん。」

散らかった台所を片付けながら、父は冷蔵庫から材料を取りだした。



「残ってて良かったよ。
まずは、玉ねぎを刻むぞ。」

「玉ねぎも入ってたんだ…」

「そうだよ。人参も少し入ってるんだ。」

父親は、慣れた手付きで玉ねぎと人参を刻んでいく。



「パパ、上手だね。」

「まぁな、もう何年もやってるからね。
次は肉を混ぜるぞ。」

父親は、刻んだ野菜と挽肉を混ぜ合わせた。



「今、入れたのは何?」

「調味料だよ。」

「僕、ミンチを丸くしただけだった。」

「そうか。ま、大丈夫だ。
少し冷やすから、そこに座って。」

父親は、あたりを片付け、テーブルの中央にケーキを置いた。



「敦の好きなチョコケーキ、買ってきたぞ。」

「……ありがと。
今日はパパの誕生日だから…だから、メンチカツを作ってあげたかったんだ。」

「うん、わかってる、ありがとな。」

父親は、敦の頭を優しく撫でた。



「ごめんね…失敗して。」

敦の視線の先には、生焼けの肉の残骸が置いてあった。



「大丈夫だ。もう1回揚げたら食べられるよ。」

そう言いながら、父はテーブルの上にバットを並べていく。



「何してるの?」

「メンチカツを揚げる準備だよ。」

「えーー…僕、ミンチにパン粉を付けただけだった。」

敦は並べられた卵液やパン粉を不思議そうに眺めた。



「さぁ、揚げようか。」

手際良く揚げる状態に整えられていく様子に、敦は釘付けだった。
敦の作ったメンチカツもボソボソの衣をはがされ、体裁が整った。
油の中でメンチカツが段々ときつね色に色付いて…



「わぁ、美味しそう!」

メンチカツが皿に盛られ、テーブルにはサラダやチキンも並べられ、敦の摘んできた黄色い花も飾られた。



「パパ、お誕生日おめでとう。」

「ありがとう。
花、綺麗だな。どこで摘んだんだ?」

「河原だよ。」

「そっか。
でも、気を付けるんだぞ。
パパには敦しかいないんだから、元気でいてくれよ。」

「大丈夫だよ。僕はずっと元気でパパの傍にいる。
だから、明日から僕に料理を教えてよ。」

「えーっ?敦、料理がしたいのか?」

「うん!パパに美味しいメンチカツを作ってあげたいんだ。」

「そっか。」

二人っきりの誕生日パーティは、賑やかではなかったが、穏やかで満ち足りたものだった。




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