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マイク

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「いらっしゃいませ!いらっしゃいませ!
本日の目玉商品はお豆腐が一丁19円、鮭フレークが168円、梅干しが198円です!
なくなり次第終了ですから、お早めにお買い求めください!」



僕は先週から、この激安スーパーで働いている。
以前働いていた工場が潰れ、それから何軒も仕事を探しまわったが、不況なのかなんなのか、なかなか採用されなかった。
仕事がないと、家賃さえ払えない。
焦って探して、ようやく採用されたのがこのスーパーだ。
僕の仕事は主に食品の品出しだから、お客さんとはあまり接することも無く、消極的な僕にはピッタリだ。



「木村君、ちょっと。」

数日後、僕は店長に呼び出された。



「はい、何でしょうか?」

「今日の午後の商品の紹介を頼むよ。」

「えっ!」



それは、お客さんの前で、マイクを持って、商品を紹介しながらお客さんを呼び込むものだ。



「店長、僕…そういうことは…」

「最近、ちょっと風邪を引いてね。喉が痛くて声がかすれるんだ。」

「で、ですが、僕…とてもそんなことは…人前で喋ることが苦手なんです。」

「大丈夫だよ。このマイクがあるんだから。」

「……どういうことですか?」

店長は微笑み、大きく頷いた。



「これはね、この店に代々伝わる特別なマイクなんだ。
このマイクに向かえば、口下手な人もスラスラ喋れるし、大きな声が出せる。」

「そんな事が!?」

「あぁ、だから、私はいつも上手く話せてるだろ?
私も、本当は人前で話すのが苦手だったんだが、このマイクのおかげであれだけ話せるようになったんだ。」

「このマイクが……」

まだどこか信じられなかったけど、店長は嘘を言ってるようには思えなかった。
それに、それが嘘なら呼び込みは無茶苦茶になる。
そんなことを僕に頼むはずがない。



時間が近付いて来る毎に、心臓がドキドキした。
だけど、大丈夫だ。
このマイクがあれば…
僕は、話す内容を頭の中で繰り返した。
やがて、時間が来た。
僕は台の上に立ち、大きく息を吸い込んで…



「いらっしゃいませ!いらっしゃいませ!
本日の目玉商品は天然水2リットルが38円、朝採りきゅうり5本パックが138円、焼きそば三食入りが58円です!
なくなり次第終了ですから、お早めにお買い求めください!」



言えた!
足は震えてるけど、間違えずに大きな声で言えた!
マイクの話はやっぱり本当だったんだ。



そんな僕を、柱の影から店長夫婦が嬉しそうに見ていた事を、その時の僕は知る由もなかった。


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