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掃除機

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「あ、あの…どういうことですか?」

「どういう…って…
あなたは、記憶をお掃除するためにここに来られたのではないのですか?」

「えっ!?記憶を掃除って……
で、でも、そんなこと、どうやって……」

おじさんはきょとんとした顔をして、傍らに置いた掃除機を指差した。



「これで吸いこむんですよ。」

「これで…って……」

どこにでもありそうな旧型の掃除機……
それを見ていたら、私の頭の中に彼のことが思い出されて……

そう、三年前に自ら逝ってしまった彼……
彼がどれほど追い詰められているかもわからず、私は彼を励まして……



「頑張って!」

「そんなことで負けちゃだめ!」



そういう言葉が、心を病んだ人にどれほど辛いものになるのかも気付かずに、私は毎日彼を励まし続けた。
それが彼のためになるんだと信じて……



時が過ぎていくにつれ、私の心は暗く沈みこんでいった。
だって……彼の命を縮めたのは私だったんだもの。
私があんなことさえ言わなけりゃ、彼は……
彼が亡くなったのは、仕事が原因だとみんな言うけど、そうじゃない。
彼のことを少しもわかってあげられなかった私のせいだ。



「からかわないで!!」



込み上げてくる感情に、涙がぽろぽろこぼれて、気が付けば私は立ちあがって大きな声を上げていた。
身体がぶるぶる震えてる……

私は、いつの間にか彼と同じように心を病んでしまった。
当たり前の顔をして町を歩いていても、心の奥底ではいつも彼の所へいくことを考えている。



「からかってなんていませんよ。
まぁ、とにかく座りましょうね。」



私が悪いことはわかってる。
ただ、理性がきかないだけ。
ここが、カウンセリングだということもなんとなくわかってた。



「ちょっと失礼します。」

おじさんはそういうと、掃除機を私の胸にあてスイッチを入れた。
がーっとセーターが吸いこまれるとまたスイッチを切り、おじさんはぱかっと掃除機をあけてその中をのぞきこむ。



「こうちゃん、天然パーマ、桜、マンションの屋上、満月……」

おじさんは、中のものを見るようにしてそんな単語を並べ上げ、その度に私の鼓動は速さを増して、身体の震えはますます酷くなっていく。
だって、それはおじさんが知ってるはずもない彼に関することばかりだったんだもの。



「やめ…やめてーーーー!」

「ごめんなさいね、びっくりさせて。
ただ、これが普通の掃除機じゃないことをあなたに信じてほしかったから……」

「そ、そんな……」

信じられないけど…この掃除機は、私の心にあるものを吸い取った……



「とりあえずこれはお返ししときますね。」

おじさんはそう言って、私の胸にまた掃除機を押し付けスイッチを入れた。
でも、今度は吸いこまれずに風が逆流した感じ。 
 
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