上 下
10 / 121
おみくじ

しおりを挟む
(よし、頑張るぞ!
今年こそ…!)



僕は、恐る恐る六角形の筒に手を伸ばす。
後ろからは小さな舌打ちの音が聞こえた。
こんなに並んでる人がいるのに、僕がさっさとやらないからだろう。
だけど、僕にとっては大切なことなんだ。
周りの人を気遣ってる余裕なんてない。



気合いを込めて、僕は六角形の筒を振る。
ラッキーセブンにあやかって振るのは七回と決めてきた。
小さな穴から飛び出た木の棒を、僕は息を飲んでじっとみつめた。



(……どうか、良い結果でりますように…!)



僕が若い巫女さんにその番号を告げると、巫女さんはにこやかな笑みと共に、内側に軽く折り曲げたおみくじを手渡してくれた。
人ごみを掻き分け、僕は少し拓けた場所に出た。
そして、恐る恐るおみくじを広げる…



(末吉……)



末吉…それが何番目に良い運勢なのか、僕にははっきりとはわからない。
ただ、特別良いものではなく、かといって特別悪いものでもないことがなんとなくわかるだけだが、僕ががっかりしたことだけは間違いない。



ここ数年の僕は、どうにもパッとしない生活が続いてた。
日常にハリがないというのか、充実感のようなものが感じられない。
同じような毎日の繰り返しに僕はつくづく飽き飽きしていた。
考えてみれば、ここ数年ひいたおみくじは確か半吉に小吉に末小吉…
おみくじのことなんて、今まではたいして気にしていなかった筈なのに、こうなってくると急に気になり始めた。
だからこそ、今年は良い運を引き当てたいと思ったのに…!



「おぅ!桜田じゃないか!」

「え……?」



振り向いた先には、知り合いの緒方がいた。
家も近く高校まで一緒だったが、年が二つ違うしそれほど仲良くしていたわけではない。
そもそも、二つ年下のくせに僕を呼び捨てにするあたりからして気に食わない。




「久しぶりだなぁ…」

「そうだね。」

本当は違う。
一週間程前、僕は駅前で緒方をみかけた。
緒方は可愛い女の子と一緒で僕の事になんて気付いてなかったけど…



「今日は…」

緒方が何かを話しかけた時携帯に着信があり、何事かを陽気に話していた。



「あぁ、じゃ、一人連れていくよ。」

電話を切ると、緒方は僕の腕を掴んだ。



「な、なんだよ。」

「合コンのメンバーが足りないらしいんだ。
桜田、これも何かの縁だ。
一緒に行こう!」

「ご、ご、合コン!?」

僕は今まで合コンなんて一度も行ったことがない。
心の中は激しく混乱していたが、僕はそれを悟られまいとにこやかに微笑んだ。



「そんな緊張しなくって大丈夫だって。
さ、行くぞ!」

「え…!?」

僕のポーズは見事に見破られていた。
今年の運は末吉だけど…少し面白い年になりそうな予感がしてきた…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ラッキーアイテムお題短編集6

ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
星座のラッキーアイテムをお題に書いた短編集です。

ラッキーアイテムお題短編集5

ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
ラッキーアイテムのお題で書いた短編集です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

1ページ劇場②

ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
コミュニティ「1ページ同好会」のお題で書いた(ほぼ)1ページのお話達… ジャンルはさまざまです。

1ページ劇場①

ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
お題に沿って、(ほぼ)1ページで書いたお話たち。

処理中です...