350 / 506
060 : 手繰りよせたなら
15
しおりを挟む
*
「今日はなんだかあっという間に時間が過ぎた感じだな。」
「馬車の中ではそう話も出来ないし、眠るしかないからな。」
「……あんた達ともここでお別れだな。
なんだか名残惜しいが…とにかく、今夜はゆっくり飲もうぜ!」
「そうだな。
昼間、たっぷり眠ったから今夜は遅くまで起きてられそうだ。」
次の日、私達は朝早くから馬車に乗り込み、長い時間を馬車の中で過ごした。
つい先日通ったばかりのその道は、これと言って見る物もない単調な旅だ。
ディヴィッドだけは、以前一度乗って以来、馬車がお気に入りの様子で楽しそうにはしていたが、昼過ぎになった頃には疲れが出たのか、あっけなく眠ってしまった。
それからは誰も話すこともなく、うとうとしているうちに夕方になり、ようやくエヴァ達の故郷の近くの町に着いた。
「……エヴァ……どうかしたのか?」
「別に……どうもしないさ。」
サイモンが気にするのも無理はない。
彼女は、馬車に乗りこんでからほとんど話もせず、浮かない顔でただぼんやりと窓の景色を眺めていた。
慣れない移動で疲れたのかと考えていたが、彼女の表情を見ていると、どうもそればかりではなさそうだ。
夕食を済ませると、私達は酒を買い込み、宿の部屋でグラスを傾けた。
「それで、エヴァはこれからどうするんだ?」
「どうって……
うちの村じゃ特に働く所はないからね。
畑を耕したり、山菜を採って町に売りに行ったり……
昔やってたことをやるだけだよ。」
「エヴァ…あなた本当にそういう暮らしが出来るの?」
「出来るさ。
そりゃあ、身体も少しはなまってるけど、しばらくしたら……」
「そういう意味じゃなくて……
あなたはそういう暮らしがいやで、村を離れたんじゃない。
だから……」
エヴァはグラスを置き、リータの言葉に何かを考えるように俯いた。
「……その通りだ。
だけど、不思議とあの頃の生活に戻りたいって思ってた。
そうすればディヴィッドともずっと一緒にいられるし、それがあの子のためにもなると思うし、なにより、あののんびりした暮らしが無性に懐かしく思えたんだ。
……でも、村に近付くに連れ、いろんなことが心配になってきた。
あんな勝手な真似をして村を出たんだ。
みんながあたしのことを受け入れてくれるだろうか…いや、あたしのことはどうだって良いけど、ディヴィッドが傷付くようなことになりゃしないか…
それに、あたしもまたああいう退屈な暮らしがいやになってしまうんじゃないかって……怖いんだよ。」
いつもとは違う弱々しいエヴァの声に、彼女の身体が一回り小さく見えた。
「今日はなんだかあっという間に時間が過ぎた感じだな。」
「馬車の中ではそう話も出来ないし、眠るしかないからな。」
「……あんた達ともここでお別れだな。
なんだか名残惜しいが…とにかく、今夜はゆっくり飲もうぜ!」
「そうだな。
昼間、たっぷり眠ったから今夜は遅くまで起きてられそうだ。」
次の日、私達は朝早くから馬車に乗り込み、長い時間を馬車の中で過ごした。
つい先日通ったばかりのその道は、これと言って見る物もない単調な旅だ。
ディヴィッドだけは、以前一度乗って以来、馬車がお気に入りの様子で楽しそうにはしていたが、昼過ぎになった頃には疲れが出たのか、あっけなく眠ってしまった。
それからは誰も話すこともなく、うとうとしているうちに夕方になり、ようやくエヴァ達の故郷の近くの町に着いた。
「……エヴァ……どうかしたのか?」
「別に……どうもしないさ。」
サイモンが気にするのも無理はない。
彼女は、馬車に乗りこんでからほとんど話もせず、浮かない顔でただぼんやりと窓の景色を眺めていた。
慣れない移動で疲れたのかと考えていたが、彼女の表情を見ていると、どうもそればかりではなさそうだ。
夕食を済ませると、私達は酒を買い込み、宿の部屋でグラスを傾けた。
「それで、エヴァはこれからどうするんだ?」
「どうって……
うちの村じゃ特に働く所はないからね。
畑を耕したり、山菜を採って町に売りに行ったり……
昔やってたことをやるだけだよ。」
「エヴァ…あなた本当にそういう暮らしが出来るの?」
「出来るさ。
そりゃあ、身体も少しはなまってるけど、しばらくしたら……」
「そういう意味じゃなくて……
あなたはそういう暮らしがいやで、村を離れたんじゃない。
だから……」
エヴァはグラスを置き、リータの言葉に何かを考えるように俯いた。
「……その通りだ。
だけど、不思議とあの頃の生活に戻りたいって思ってた。
そうすればディヴィッドともずっと一緒にいられるし、それがあの子のためにもなると思うし、なにより、あののんびりした暮らしが無性に懐かしく思えたんだ。
……でも、村に近付くに連れ、いろんなことが心配になってきた。
あんな勝手な真似をして村を出たんだ。
みんながあたしのことを受け入れてくれるだろうか…いや、あたしのことはどうだって良いけど、ディヴィッドが傷付くようなことになりゃしないか…
それに、あたしもまたああいう退屈な暮らしがいやになってしまうんじゃないかって……怖いんだよ。」
いつもとは違う弱々しいエヴァの声に、彼女の身体が一回り小さく見えた。
0
あなたにおすすめの小説
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
ブラック・スワン ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~
碧
ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)
裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。
夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。
辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。
側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。
※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
初恋が綺麗に終わらない
わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。
そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。
今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。
そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。
もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。
ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる