お題小説2

ルカ(聖夜月ルカ)

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060 : 手繰りよせたなら

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「ま、良いじゃないか。
ディヴィッドはあんなに元気に育ってくれたんだし……
な、おばさん!」

サイモンの言葉に、リータは苦笑する。



 「そうね……
あ、そんなことより、サイモン…何か、リュックさんの役に立つような話は覚えてないの?」

 「それが……
俺が聞いたのは、海底に神殿があるってことだけで……他には……
あ…そうだ!大道芸人のことを気に入って声をかけて来た金持ちと一緒にどこかの小島に遊びに行った時……そう、確か釣りだ!
 釣りに出た先で、急な高波に襲われて海に投げ出されて……」

 「その時に海底神殿を見たってことか?」

 「多分…そうだったと思う。」

その時、不意にエヴァが甲高い笑い声を上げた。



 「馬鹿だねぇ…
そりゃあ、溺れかけた時に夢を見たんだよ。
そういう時にはありもしないことを実際に見たように錯覚するもんだよ。」

 「……そうだな。
 確かにそういうことはあるかもしれない。
……でも、今の俺達にはこれと言って手掛かりはないんだ。
 一応、行ってみるよ。」

 「……全く、粋狂だねぇ…」

エヴァは呆れたような顔でリュックを見ながら失笑した。



 特に重要な情報ではないかもしれないが、サイモンのおかげで次に行くべき場所が決まった。
だが、きっと、皆、心の底では本気にはしていなかったのだろう。
その後は、海底神殿の話が出ることも鳴く、ただ他愛ない話をしながら、食べて飲んで、楽しい時間を過ごした。



 *



 「あの丘の上はどうだ?
あの美しい夕日は、気持ちを伝えるには最高の雰囲気を作り出してくれるんじゃないか?」

 「やっぱり、そうかな?
 俺もそう思ってたんだ。
でも…俺、本当に言えるかなぁ?」

 「大丈夫だ。
 君だって、もう二度と彼女を手放したくはないだろう?
 彼女が町を離れた時のことを…リータさんと一緒にエヴァを探してた時のことを思い出すんだ。
 君は、彼女が結婚することを聞いても、諦められなかった。
それほど、君は彼女のことを愛してるんだ。
 今度こそ、逃がすんじゃないぞ。」

サイモンはほんのわずかに頷いた。



その晩、私達は宿屋に泊まり、私はいつもとは違い、サイモンと同室になった。
ディヴィッドも宿屋に泊まってみたいと言い出し、彼がリュックと一緒の部屋になったからだ。
そこで、私はまたサイモンからエヴァのことで相談を受けた。
 本心ではすぐにでもプロポーズをしたのだろうが、その反面、そういうことをして、もしも断られたら…と考え、関係が悪くなるのを怖れているようだ。

 
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