お題小説2

ルカ(聖夜月ルカ)

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051 : 誘惑

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 「……いいかげんにおし。
 一体、いつまでそうやって黙りこくってるつもりなんだい!?
いい大人がみっともない!」

 町に戻るギリギリの時間まで、ディヴィッドと一緒に裏山の洞窟に隠れていたリュックだったが、酒を運ばないわけにはいかないと、渋々エヴァの家に戻った。
ぶつぶつと文句を言い続けるエヴァを一切無視して、リュックは黙々と重い荷車を引いて行く。
エヴァは、そんなリュックに一人でずっと話しかけていたが、ついに我慢しきれず、感情を爆発させた。



 「……重いからしゃべるときついんだ。」

 「よく言うよ。
いつもはぺらぺら喋るくせに。」

 「な、なんだよ、ぺらぺらって……
まるで俺がおしゃべりみたいじゃないか。」

 「その通りじゃないか!
あんたはおしゃべりだろ!」

 遠慮のないエヴァの言葉に、リュックは小さく舌打ちをして俯いた。



 「なんだよ、あのくらいのことで……
あんた、それでも男なのかい!」

リュックは、何も言わず不意にその場に立ち止まる。



 「な、なんなんだよ。」

 「……昨夜は本当にすまなかった。
 俺……昨夜はすごく酔ってて……
でも、まさかあんなことをしてしまうなんて…俺…全然覚えてなくて……自分でも信じられないくらいなんだ。」

 俯いたまま、小さな声で詫びるリュックを、エヴァは驚いたようにじっとみつめた。



 「……仕方ないさ。
 男の本性が目覚めただけだろ。
でも…あたしが酒場勤めだからって軽い女だと思ってもらっちゃ困るよ。
あたしは、家に男を連れ込んだことなんて一度もないんだから。
あんたは……その、ディヴィッドのこともよく可愛がってくれるし、何の関係もない町のために一生懸命尽くしてるし……つまり、信頼してるんだ。
あんたとなら、所帯を持っても良いと思った。
だから、昨夜も……」

 「ちょ、ちょっと待ってくれ!所帯ってそんな……
俺は知っての通り、旅をしている。
いつ終わるともわからない旅だ。
それに……」

 「その他にもなにかあるのかい?」

 「……俺には将来を約束した人がいる。
いや、もちろん、相手が本気じゃないことはわかってる。
 俺なんかのこと、待ってるはずがねぇ。
でも……そのことをはっきりさせるまでは……だめなんだ。
それに……ディヴィッドのことはとても可愛いと思うけど、俺……あんたのことをそんな目で見たこと一度もなかったし。」

リュックの声は、言いにくそうにだんだんと小さくなった。
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