お題小説2

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
286 / 389
048 : 数珠つなぎ

しおりを挟む




 「あそこなんだ。」

 昼過ぎになって私達はようやく隣町に辿り着き、チェスターは商店街の近くのレストランを指差した。



 「わざわざすまなかったな。
わし一人でもどうにかなったんだが、せっかく来てもらったんだ。
 夕食には少し早いが、ご馳走したいと思ってな。」

 「そいつは嬉しいな。
ちょうど腹がすいてた所なんだ。」

 「そうか、この店のシェフはけっこう良い腕してるんだ。
なにかうまいものを作ってもらおう。」



チェスターの心遣いに感謝しながら、私達がレストランへ向かっていた所、ちょうど扉が開き、中からシェフらしき男が出て来た。



 「トーマス!」

 「あぁ、チェスター!
 今日はいつもより遅かったんだな。
あれ…?」

 「今日はリンゼイが急な用で来られなくなってな。
それで、この人達が代わりに来てくれたってわけなんだ。」

 「そうか、それは大変だったな。
とにかく、まぁ、入ってくれ。」



 *



 「本当だ!
チェスターの言う通り、すっごくうまいな!」

トーマスの料理は、このところ、歩き詰めだった私達の身体に、新たな活力を与えてくれるようだった。
ぱっとしない店構えとは裏腹に、料理は味はもちろんのこと、彩りや盛り付けにも凝った繊細なものだ。
だからこそ、この店には客が集まるのだろう。
チェスターの話によれば、昼食時にはしばらく待たなければ入れない程なのだと言う。



 「……あれ?トーマスの奴、どうしたんだ?」

 私達に料理を出すと、トーマスはまた店の外へ出て行った。



 「ええ…今日はちょっと事情があってね……」

 「なにかあったのか?」

 「実はね……」



トーマスの妻の話によると、今朝、隣町で火事があったそうで、様子を見に彼らの息子が出向いたらしいが、なかなか戻って来ないので心配しているのだという。



 「そういや、隣町にはトーマスの妹夫婦が住んでるんだったよな?」

 「そうなのよ。
それで、ミックに見に行かせたんだけど……
やっぱり、今日は店を休んで私達が行けば良かったわ。」

トーマスの妻は、外にいる夫の方を眺めながら、憂い顔で呟いた。



 「ミックっていうのはあんたらの息子なのか?」

 「そうよ。」

 「いくつなんだ?」

 「今年で十歳よ。」

 「なに、まだそんなに小さい子なのか?」

リュックがそう行ったのも無理はない。
トーマス夫妻の年齢から考えれば、もう少し年上の子供だと思うのが一般的だ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

今世では溺れるほど愛されたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:598

幼馴染か私か ~あなたが復縁をお望みなんて驚きですわ~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,400pt お気に入り:4,491

「バカな男子高校生が女子校に入学しました!」

青春 / 連載中 24h.ポイント:198pt お気に入り:63

神隠しが日常的な田舎には、怪しげな美人が多い

青春 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:42

小さい果実と実る恋

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

泣き虫龍神様

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:157

初恋のその先へ〜手を差し伸べたのは大人になったあなたでした〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:191pt お気に入り:1,581

処理中です...