お題小説2

ルカ(聖夜月ルカ)

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042 : 夢と現実の間

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 「マルタン!!」

どのくらい眠った頃だったろうか?
 私は、リュックに名を呼ばれ目を覚ました。
リュックは、私がもそもそと動き出したのを見て、悲痛な声で再び私の名を呼んだ。



 「マルタン!あれを…!」

リュックが指差す先を見る前に、私は気配を感じていた。
 私とリュック以外の何者かの気配を…
そのまま視線を移すと、そこにはいるはずのない女性のすらりとした足と白いドレスの裾が目に映り、私は俄かに鼓動が速まるのを感じながら今一度気を静めてから見てみようと目を瞬かせた。
しかし、次の瞬間にはそこには何もなくなっていた。



 「マルタン!見たか!?」

 血相を変えたリュックが私の側に駆け寄って来た。



 「見たって…何を…?」

 「……そうか、あんたには見えなかったのか…」

 残念そうにして、リュックは私の足元に腰を掛けた。



 「……今、誰かがいたのは感じた。
それと…白いドレスの裾を見たような気がする。」

 「あんたも見たのか!」

 「急に起きたから寝惚けていたのかもしれないが…そういうものを見たような気はする。
そこの窓辺でな。」

 全くその言葉通りで、私は明らかに何者かの気配を感じながらも、自分の見たものが本当に見たのかそれともただの幻覚なのか、判断がつかないでいた。



 「その通りだ!
 女は、白いドレスを着ていた。
 胸と袖に刺繍の入ったドレスだ。
 茶色の肩くらいまでの髪をした若い女だった。
 今回は昨夜よりもっとはっきりとわかった。
やっぱり、誰かに会いたいってそう言うんだ。
だけど…それが誰なのかわからない。
ただ…会いたい、会いたいって……
とにかく、必死になって俺にそう訴えて来るんだ。
 俺も、なんとか会わせてやりたいが、その女が誰かもわからない、会いたがってる相手が誰なのかもわからない……こんなんで俺はどうすれば良いんだ?」

リュックのそんな話も私の耳を右から左にすりぬけていた。
 私の頭の中は、今見た女性の足とドレスの裾のことでいっぱいになっていたのだ。
ただ、それだけのことでこんなにも自分が動揺してしまうことに、私は少なからず失望した。
リュックは、もっと鮮明に夢でメッセージを受け取り、その人物の姿を見ている。
 今まで私はどれほどリュックに対して無責任なことを考えていたかを、今頃になって思い知らされた。
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