お題小説2

ルカ(聖夜月ルカ)

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041 : 秘めごと

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「ビル……こんな所で……!」

 変わり果てた姿になった友人の前で、マーチンは泣き崩れた。
 朽ち果てたその顔はもう黒いあざも確認出来ないありさまだった。

マーチンは、考えた末にその村の共同墓地にビルを埋葬した。
イングリットに彼の遺体を見せるのは、あまりに酷だと考えたのだ。
 彼が死んだことを知れば、イングリットがさらに深い傷を負う事も懸念された。
 声が出なくなるほど傷付いている彼女に向かって、彼の死を伝えることはどうしても出来ないと考えたのだ。



 (ビル…少しだけ待っておくれ。
イングリットがもう少し落ちついたら、彼女にすべてを話す。
そして、君をバーグマンさん達の所へ連れていくから…)

マーチンは、ビルの墓前で彼にそう誓った。



しかし、町に戻ったマーチンはイングリットから思いがけない事を知らされた。
ビルを愛していると…イングリットの手紙にはそう書いてあったのだ。
さらに、彼女はビルへの愛の証のウェディングドレスを縫い上げた。
ビルがイングリットの生きる支えになっていることをマーチンは痛感した。
ビルがすでにこの世にいないという事実を伝えることは、イングリットの命を奪うことにもなりかねない。
そう思うと、マーチンにはビルの死を伝えることは出来なかった。



 *
 *
 *



 (本当にすまない…
いつか、彼女の心から君がいなくなったら、伝えようと思っていた。
だが、彼女が君を忘れる事はなかった…
あのウェディングドレスが仕舞われることはなかった。

……君には完敗だよ。
 彼女の心から君がいなくなったら、私も伝えようと思っていたんだ。
イングリットを愛していると…
だけど、その日は一向に訪れなかった。
きっと、その先もずっと彼女が君を忘れることはない……)

マーチンは、立ち上がって窓を開け、澄みきった青い空を見上げた。



 (ビル、君は、本当に幸せな男だね。
 私は君が羨ましいよ…)



マーチンは、青い空に懐かしい友のはにかんだ笑顔を見たような気がした。
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