お題小説2

ルカ(聖夜月ルカ)

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025 : 破魔矢

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 「結界が破れておる…」

 祈祷師は、氷のように透き通った大きな水晶玉をのぞきこみながら、そう続けた。



 「結界?」

その言葉を聞いてざわめく人々の中の一人が、おもむろに立ちあがる。



 「昔、聞いたことがあるぞ!
あの屋敷には魔物を封じる矢があると言う話を…!」

 「その通りじゃ…
おそらくその矢に何事かあったのじゃろう。
トネリコの木で、魔物を封じる矢を作り、それを暁の女王が突き立てるのじゃ。
そうすれば、魔物を封じこむことが出来よう。」

 「暁の女王とは、どこにいるのです?」

 祈祷師によると、それは、夜明けに生まれた12歳以下の少女だということだった。



 「しかし、そんな娘は何人もいると思うのですが…」

 「矢は暁の女王にしか立てられぬ。」



 祈祷師の話は、どこか胡散臭いものではあったが、今はそれしか頼れるものがない。
すぐに神父の手によって、トネリコの木で魔封じの矢が作られた。
それと同時に、国中から12歳以下の夜明けに生まれた少女が集められた。

やがて、町の有志達が祈祷師と共に状況を確かめるため、悪魔の屋敷へ足を踏み入れた。



 「これは!」

 一同が目にしたものは、壁の前に落ちた一本の矢だった。
 長い年月の間に効力をなくしたのか、そこには色褪せ朽ち果てた矢が落ちていた。
それにより、祈祷師の言葉を疑う者はいなくなった。



 次の日から、少女達は、祈祷師の護符を身に付け、一日に一人ずつ悪魔の屋敷へ向かった。
ただ、矢を付きたてるだけのこと…皆、容易くそう考えていたが、不思議なことにトネリコの矢は壁にはなかなか刺さらない。
 力を込めすぎれば矢は折れ、弱過ぎると落ちてしまう。
しかも、その少女達の中には、悪魔の屋敷に出向いてから、原因不明の病に冒される者や発狂する者が続き、中には死んでしまう者までもがいた。
そのせいで、辞退を申し出る者もいたが、そんなことはもはや許されない。
 迂闊に少女を差し出したことに、少女達の両親は嘆き悲しんだ。
 矢を刺しに行く少女があと三名となった時、モイラという少女の番になった。
モイラは今までの少女達と同じく、悪魔の屋敷の壁にトネリコの矢を突き立てる…



「おぉっ!!」

 付き添いの男は、我が目を疑った。
 今まで何人もの少女が試しても刺さらなかった矢が、いとも簡単に刺さったのだ。
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