お題小説２

003 ： 障害と剣

５０

それからのルイスの行動は驚くほど素早いものだった。
 先日のターナーのような件があると危険だからということで、武器を持った試合は今後は廃止すると発表した。
リカールが見られなくなるということで失望したファンは多かったようだが、ルイスはそんなことはお構いなしだ。
ちょうど良い具合にニッキーの人気が高まっていたため、リカールの抜けた穴はそれで埋められると彼は考えたようだ。
そのためか、ニッキーには陳腐とも思える程派手な衣裳を何着もあつらえていた。
そういうものがなくとも、ニッキーの実力は折り紙付きだ。
 彼ならルイスの期待を裏切る事はないだろう。

 本来なら武器を持った闘いの行われる日曜日には、リカールの引退ということで彼が一人で剣の舞を披露した。
 彼は意外にも踊りの名手だった。
ただ上手いというだけではなく、その流れるような動きはどこか神ががって見えた。
 彼の華麗な舞いに魅了された観客の間には、なおさら彼の引退を惜しむ声が広がった。
そこで、ルイスは抜け目なく、今後はリカールには舞いを披露してもらうことにすると言い出し、舞いなら危険はないことからマノンも渋々その提案を承服した。

ルイスはマノンには店を休むように説得したが、マノンはそれを断り、クロードの助言もあってあと数ヶ月だけ働くということで話が着いた。
 結婚式の準備も着々と進んでいるようだ。
 日取りも教会もルイスが段取りをしたらしい。
 当然、私達も招待されている。

すべてが順調で、幸せに包まれているような毎日だったが、私達には一つだけ心の痛むことがあった。
テレーズやルイスはまだ性別もわからない孫の産着やおもちゃを買って来ては喜んでいる。
そんな姿を見ていると、私達も罪悪感に苛まされるのだが、ここまで来て引き返す事は出来ない。
とにかくマノンとリカールの式が済むまでは、口をつぐむしかないのだ。