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ルカ(聖夜月ルカ)

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098. ほんの少しの寂しさと

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それからの数日間は瞬く間に過ぎてしまった。
楽しい時間は早くに過ぎるというのは本当だと痛感した。
いや、マクシミリアンと一緒にいると楽しい事ばかりではない。
ついかっとすることや、悲しい気持ちになることもしばしばあった。
しかし、これほどまでに感情が揺れ動くことは今まで久しくなかったことだ。
いつもはただ流されるままに生きていただけ。
感情が動く事がなかったのだ。
心は半分死んでいた…
その心に命を与えてくれたマクシミリアンも、ついに明日旅立つ。
また、同じ毎日が戻って来るのだ。
せっかく命を吹き返そうとしていた私の心は、また闇に閉ざされるのだ。
それを考えると、私はなんとも言えない気分になった。








「フランク、世話になったな。」

そう言って、マクシミリアンは私の身体を抱き締めた。
彼に特別な気持ちがあるのではないことはわかっている。
ただの親愛の情を込めたハグだ。
だが…それは私にとっては、久しぶりに感じた人の温もりだった。
母親がいなくなってから、初めて感じた温もりだったのだ。

私の瞳から、今までの短い人生にたまった悲しみや寂しさが、涙になって溢れていた。



「フランク…!」

マクシミリアンは、私の涙に驚いたような顔をしていた。
私は気まずい雰囲気をどうすることも出来ず、その場から逃げ出そうとした時、彼の手が私の腕を掴んだ。



「フランク……君も一緒にいかないか?」

「えっ…?!」

「この船で、異国へ行かないか?」

「ば…馬鹿なことを言わないでくれ。
そんなこと出来るわけがないじゃないか!」

「なぜだ?
簡単なことじゃないか。」

「……簡単?」

「そうだ…君はただ手を伸ばせば良い。
自分の人生を変えたければ、自分で動き出せば良い。
……それだけだ。」

「いいかげんなことを言わないでくれ。
そんなことをしたら、父は…カステレード家は…」

「フランク…君は何のために生きているんだ?
父上のためか、家のため?
君が、今、生きているのは、君の人生なんだぞ!」

「やめてくれ!!」







高く青い空を白い雲がゆっくりと流れていく…




「フランク、空ばかり見てて良く飽きないな。
異国に着くまでの三ヶ月間、ずっとそうやって空を眺めてるつもりなのかい?」

マクシミリアンの笑顔が眩しい。



私は船に乗ってしまった。
マクシミリアンが差し伸べてくれた手を掴んで…

父のことを考えると、胸が痛む…
もしかしたら、異国の地に着いた途端に、私は船を乗り換えて故郷に戻ってしまうかもしれない。



だけど…そうしないかもしれない…

新しい地で、新しい人生を…
フランクではなく、フランソワとしての人生を歩み出すかもしれない…

それは、この船が着くまでに決断しよう。
とにかく、私が一歩前に進めたことだけは間違いのない事実だ。
一歩踏み出すまでに16年もかかったのだから、先を急ぐ事はない。
私の物思いを感じ取ったのか、どこか不思議そうな顔をしたマクシミリアンが微笑む。




私にも、いつか、あの空に手が届く日が来るかもしれない…

彼の笑顔をみていると、私はついそんな気持ちになれた。


 
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