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094. 理想郷
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そこは、山を迂回した道で、最近は通る人がいないせいか、至る所に草が生え、とても歩きにくい道でした。
しばらく歩いて行くと、不意に十字路に出ました。
この街道は隣の町に続いているということでしたから、なぜこんな十字路があるのか、どこか不思議でした。
どちらへ進もうかと考えていた時、私の頭にある歌が思い起こされたのです。
『十字の小道は、北、東、北、北、西で、南行く…』
私が幼い頃、お母様が歌ってくれた歌の一部です。
それは理想郷のことを歌った歌でした。
私の体を震えが突き抜けました。
(……まさか。)
十字路を北に進むと、また十字路です。
今度は東に進むと、その先はやはりまた十字路だったのです。
そんなことを繰り返しながら、私は、十字の道を歌の通り、北、東、北、北、西、南と進んで行きました。
(……えっ!?)
十字路を南に進んだ時、唐突に、町のようなものが朧げに姿を現したのです。
私はその町を目指して進んで行きました。
町の入り口に髪の長い男性が立っていました。
「ようこそ、アナベル。」
「え?な、なぜ、私の名前を…?」
「あなたがここへ来ることはわかっていました。」
男性は、そう言って穏やかな笑みを浮かべました。
私は戸惑いながらも、どこか気持ちが落ち着くのを感じていました。
目の前には、肥沃な土地が広がり、小ぶりの民家が立ち並んでいました。
空は青く澄み渡り、賑やかな小鳥のさえずりが聞こえました。
「あ、あの…もしやここは……」
「あなたはもう何も心配することはありません。」
ふと、振り返ると、今、私の歩いて来たはずの道がなくなっていました。
その時、私は確信しました。
理想郷に着いたのだ、と。
「さぁ、行きましょう。」
差し出された男性の繊細な手に、私は自分の手を重ねました。
(お母様…ありがとう……)
青い空に、お母様の微笑みが見えたような気がしました。
しばらく歩いて行くと、不意に十字路に出ました。
この街道は隣の町に続いているということでしたから、なぜこんな十字路があるのか、どこか不思議でした。
どちらへ進もうかと考えていた時、私の頭にある歌が思い起こされたのです。
『十字の小道は、北、東、北、北、西で、南行く…』
私が幼い頃、お母様が歌ってくれた歌の一部です。
それは理想郷のことを歌った歌でした。
私の体を震えが突き抜けました。
(……まさか。)
十字路を北に進むと、また十字路です。
今度は東に進むと、その先はやはりまた十字路だったのです。
そんなことを繰り返しながら、私は、十字の道を歌の通り、北、東、北、北、西、南と進んで行きました。
(……えっ!?)
十字路を南に進んだ時、唐突に、町のようなものが朧げに姿を現したのです。
私はその町を目指して進んで行きました。
町の入り口に髪の長い男性が立っていました。
「ようこそ、アナベル。」
「え?な、なぜ、私の名前を…?」
「あなたがここへ来ることはわかっていました。」
男性は、そう言って穏やかな笑みを浮かべました。
私は戸惑いながらも、どこか気持ちが落ち着くのを感じていました。
目の前には、肥沃な土地が広がり、小ぶりの民家が立ち並んでいました。
空は青く澄み渡り、賑やかな小鳥のさえずりが聞こえました。
「あ、あの…もしやここは……」
「あなたはもう何も心配することはありません。」
ふと、振り返ると、今、私の歩いて来たはずの道がなくなっていました。
その時、私は確信しました。
理想郷に着いたのだ、と。
「さぁ、行きましょう。」
差し出された男性の繊細な手に、私は自分の手を重ねました。
(お母様…ありがとう……)
青い空に、お母様の微笑みが見えたような気がしました。
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