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ルカ(聖夜月ルカ)

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093. 忘れられない

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部屋の鍵がなかなか開かない。

「ちょっと貸してください。」

不意に声をかけられ振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。
白髪混じりの中年の女性だ。
私は、言われた通りに部屋の鍵を差し出した。



「ここの扉は建付けが良くなくてね…
ここをこうしながら回すと開くんですよ。」

女性は、扉を持ち上げ気味に鍵を回し、鍵を開けてくれた。



「ありがとうございました。
助かりました。
あなたはこの宿の方なのですか?」

「いいえ…私はこの宿の泊り客ですが、ここにはもう何度も来てるからよ~く知ってるんですよ。」

そう言いながら、女性は微笑む。



「何度も…ですか?
もしかしたら、『記憶の泉』という所にですか?」

女性は、黙って頷いた。

「それはちょうど良かった。
先ほど、ちらりとその名前を聞いたのですが、それがどういう場所なのか、知らないのです。
よろしければ『記憶の泉』のことを教えていただけませんか?」



女性は少し躊躇っているようで、しばしの沈黙の後にポツリと呟くように私にこう問うた。



「……あなたには…忘れられない人や、忘れられない出来事がありますか?」

「忘れられない人ですか?
……残念ながら、私にはそんなロマンチックな思い出はまだありません…」



「やはり…あなたには必要がなさそうですね…」

「必要がない?
どういう意味ですか?
私の何が必要ないというのですか?」

「あなたは、記憶の泉には行く必要がないということです…
……あなたは、私なんかとは違ってお幸せな方なのですよ。」

「どういうことです?」



女性は、微笑み「では、これで…」と奥の部屋に消えて行った。



まただ…
店の主人も「あなたには必要ない」…そう言った。
一体、二人は何を示唆しているのか?

おそらく、あれ以上聞いてもあの女性は何も教えてはくれなかっただろう…
明日、もう一度、店の主人に尋ねてみよう…

そう考え横になったが、最後に見た女性のあの無理な作り笑顔が、頭からなかなか離れなかった…
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