Gift

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
628 / 697
090. 一千年

しおりを挟む




 「ジョッシュ!今度の休み、皆でハイキングに行かないか?」

 「ハイキング?そういえば、ここんとこ、どこにも行ってなかったな。
うん、行こう!」



あれから、どれほどの時が流れたのか、もはや僕にはわからない。
とにかくあの頃とはまるで違う時代になった。
 悩み、戸惑い…発狂してしまうのではないかと思った時期もあったけど、ようやく僕は落ち着きを取り戻し、最近はけっこう楽しく生きている。
 心の中の大きな悩みが消えたわけではないけれど、長い時を過ごす中で、僕もようやく悟ったのかもしれない。



 僕は、この時代のごくありきたりな16歳を演じている。
 数えきれない程の嘘を吐き、どうにか体裁を繕って…
相変わらず、一所には長くはいられない生活だが、そんな暮らしにももう慣れた。



 *



 「ボブ、リック、遅いぞ~!」

 「ジョッシュが早過ぎるんだってば!」



 次の休み、僕は友達と一緒にハイキングに出掛けた。
 山を歩いているうちに、僕は不思議な感覚に襲われた。



 「なぁ、ボブ…ここってなんて山なんだい?」

 「え?なんだっけ…確か…トゥ…そうだ!トゥローバ山だったはずだけど…」

 「トゥローバ山…?」

その名前には記憶があった。
 記憶の糸を手繰るうち、それがあの老人と会った山だと思い当たった。
 山は整備され、ハイキングコースとなって昔とはまるで違っている。



 「すまない、僕、ちょっと先に行くから。」

 「お、おい、ジョッシュ!」



 僕はその場から駆け出した。
あの場所…老人と出会ったあの洞窟がまだあるかどうか、確かめたかったのだ。



 頂上は展望台となっていた。
 幸い、近くには誰もいない。
 僕は身を乗り出して、壁面を見た。



 (あった!)



 僕は身をよじり、洞窟に足を踏み入れた。
あの時のことが脳裏によみがえる…
そうだ…あの時、僕はこの洞窟に入り…



「あっ!」



 行き止まりの場所に老人がいた。
あの時の老人だ。
 体が震え、全身が総毛立つ。



 「一千年の時はどうだった?」

 「どうか、僕を元に戻して下さい!」

 「なぜだ?誰もが羨む不老不死の体を手に入れたというのに、おまえはそれを気に入らないというのか?」

 「僕はそんなものはいらない!
 長い時を生き、心からそう思いました。
 短くとも、人として精一杯生きてそして安らかに死にたいのです。」

 老人は微笑み、片手を差し出した。
その掌には、黒い丸薬が乗っていた。



 僕は、その丸薬を口の中に放り込んだ。



 (あ……)



まるで、砂の城が崩れていくように、足元から僕はちりのようになって消え始めた。



 (あぁ……)



 僕の頬を熱い涙が濡らしていく…



長い長い僕の人生が、ようやく幕を閉じる。
 僕が最後に想ったのは、懐かしい故郷の風景だった…

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ちょっと待ってくれー!!彼女は俺の婚約者だ

山葵
恋愛
「まったくお前はいつも小言ばかり…男の俺を立てる事を知らないのか?俺がミスしそうなら黙ってフォローするのが婚約者のお前の務めだろう!?伯爵令嬢ごときが次期公爵の俺に嫁げるんだぞ!?ああーもう良い、お前との婚約は解消だ!」 「婚約破棄という事で宜しいですか?承りました」 学園の食堂で俺は婚約者シャロン・リバンナに婚約を解消すると言った。 シャロンは、困り俺に許しを請うだろうと思っての発言だった。 まさか了承するなんて…!!

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~

柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。 想像と、違ったんだけど?神様! 寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。 神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗ もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。 とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗ いくぞ、「【【オー❗】】」 誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。 「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。 コメントをくれた方にはお返事します。 こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。 2日に1回更新しています。(予定によって変更あり) 小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。 少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

処理中です...