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ルカ(聖夜月ルカ)

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083. 幻想の草原

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村に入ると、俺達とすれ違うエルフ達が俺達を見て驚いたような顔をする。
きっと、ここに人間が来ることは稀なんだろうな。
でも、その顔は悪意を感じるものではなく、驚いたような顔の後には、皆、にっこりと微笑んでくれるんだ。
どのエルフも、ジーニアスと同じように背が高くて綺麗だ。
面白い顔をした者は一人もいない。
ま、それも考えてみれば当然だな。
エルフはエルフとしか結婚しないだろうから、綺麗な者同士からは綺麗な子が生まれるわけだ。
そういえば、顔つきも、皆、どことなく似ている。
家も人間の家とほとんど変わらない。
特に馬鹿でかくもなく、みすぼらしいこともない、ごく標準的な煉瓦作りの家だ。



「あそこが長の屋敷です。」

長の屋敷は、そこに来るまでに見た他の家よりはやはり大きく立派な感じがした。
ジーニアスが扉を叩くと、エルフの男と女が出迎えた。
多分、屋敷の使用人のような者なんじゃないかな?
二人は俺達を見てやっぱり驚いていたが、ジーニアスはそんなことには構わず俺達を部屋の奥に案内した。
その態度から察するに、ジーニアスはけっこう身分の高いエルフなのかもしれない。




「あれが長です。」

奥の広い部屋の寝台で、長は眠っていた。
やっぱりその長もとても上品で美しい顔で…
俺は、しばらく見とれてしまう程だった。



「ルークさん、笛を出していただけますか?」

「あ…あぁ、そうだったな。」

俺はランスロットに頷き、懐からおずおずと笛を差し出した。




「ありがとうございます。」

ジーニアスは受け取った笛を嬉しそうに眺めると、優雅な動作で笛を構え、唇をあてた。
笛からは心地良い音色が流れ出す。
ジーニアスが笛を構える姿は憎い程絵になっている。
その音色と姿に俺がうっとりとしていると、使用人の二人が声を上げた。
長が目を覚ましたんだ。




「シューメイヤ様!」

ジーニアスもすぐにそのことに気付き、笛の音もそれと同時にぴたりと止んだ。



「ジーニアス……私はどうしたのだ?
この者達は…!?」

「シューメイヤ様、あなたは小人の村の宴の時に眠りの呪いをかけられてしまったのです。
私がついていながら本当に申し訳ございませんでした。
この者達のおかげでようやく目覚めの笛を手に入れることが出来、こうして呪いを解くことが出来たのです。
時間がかかってしまい申し訳ありません。」

ジーニアスは、長に手を貸し、長はゆっくりと半身を起こした。
使用人達は涙を流して長の目覚めを喜び、男の方が部屋から飛び出した。
きっと、村のエルフ達に知らせに行ったんだと思う。

 
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