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082. 飛燕
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「リュック!」
不意に名前を呼ばれ、リュックは目を開き身体を起こす。
「良かった…みつかった。」
見慣れた顔がほっとしたように微笑む。
「みつかったじゃないよ。
一体、どこに行ってたんだ?」
「それが……ご老人が大きな荷物を持ってて、なんとも危なっかしい様子でな…」
マルタンは荷物を降ろし、リュックの傍に腰を降ろした。
リュックは、俯き加減で失笑する。
「なるほど…それで家まで送って来たんだな。」
「よくわかったな。」
「あんたのしそうなことだからな。
さすがは、元司祭様だ。」
「よく言うよ。
君だってきっと同じことをしていたさ。
君は、元司祭じゃないけどな…」
マルタンのジョークにリュックは再び微笑んだ。
「それでリュック…買い物は…」
「あぁ、それなら大丈夫だ。
缶詰をどうしようか迷ったんだけど、一応四つだけ買っておいた。」
「そうか、すまなかったな。
それで……私を待っててくれたのか?」
「まぁ、待つの半分、良い天気だから帰るのがもったいないって気持ちも半分だな。」
「確かに良い天気だ…」
マルタンは、片手を額にかざし、空を見上げ目を細めた。
「この暖かさ…ちょうど良いと思わないか?
俺、将来、このあたりに住もうかな。」
「でも、リュック、このあたりは冬はけっこう寒いらしいぞ。」
「そうなのか…俺は寒いのは苦手だな…」
「君は、将来、ナディアの農場を継ぐんだろ?」
マルタンの問いに、リュックは曖昧な笑みを浮かべ、その場に再び横になった。
「……なぁ、マルタン…あんた、以前、結婚してたんだろ?
結婚する時に、迷いやら…不安みたいなものはなかったのか?」
「……なかったわけではないさ。
なんせ、私は神を裏切るような行為をしてしまったのだからな。
そのことでの悩みは大きかったよ。
だが……当時の私は今よりもずっと若かった。
情熱がすべてを流し去ったというわけだな…」
マルタンは、他人事のように淡々と呟き、どこか遠くをみつめる。
「情熱か…あんたはいつも冷静なのに、なんだか意外だな。
……俺は年を取ってしまったから熱い情熱がないんだろうか…」
「どうしたんだ?ナディアのことで何かあったのか?」
「いや…そういうわけじゃないんだけど…」
心配そうにリュックをのぞきこむマルタンとは視線を合わせないまま、リュックは言葉を濁した。
「心配しなくとも、君は熱いものを持ってるよ。
それが今は結婚というものに向いてないだけのことだろう。
……早く、海底神殿をみつけないといけないな。
ナディアが年取ってしまう前に…」
「……俺に愛想を尽かす前に…の、間違いだろ?」
不意に名前を呼ばれ、リュックは目を開き身体を起こす。
「良かった…みつかった。」
見慣れた顔がほっとしたように微笑む。
「みつかったじゃないよ。
一体、どこに行ってたんだ?」
「それが……ご老人が大きな荷物を持ってて、なんとも危なっかしい様子でな…」
マルタンは荷物を降ろし、リュックの傍に腰を降ろした。
リュックは、俯き加減で失笑する。
「なるほど…それで家まで送って来たんだな。」
「よくわかったな。」
「あんたのしそうなことだからな。
さすがは、元司祭様だ。」
「よく言うよ。
君だってきっと同じことをしていたさ。
君は、元司祭じゃないけどな…」
マルタンのジョークにリュックは再び微笑んだ。
「それでリュック…買い物は…」
「あぁ、それなら大丈夫だ。
缶詰をどうしようか迷ったんだけど、一応四つだけ買っておいた。」
「そうか、すまなかったな。
それで……私を待っててくれたのか?」
「まぁ、待つの半分、良い天気だから帰るのがもったいないって気持ちも半分だな。」
「確かに良い天気だ…」
マルタンは、片手を額にかざし、空を見上げ目を細めた。
「この暖かさ…ちょうど良いと思わないか?
俺、将来、このあたりに住もうかな。」
「でも、リュック、このあたりは冬はけっこう寒いらしいぞ。」
「そうなのか…俺は寒いのは苦手だな…」
「君は、将来、ナディアの農場を継ぐんだろ?」
マルタンの問いに、リュックは曖昧な笑みを浮かべ、その場に再び横になった。
「……なぁ、マルタン…あんた、以前、結婚してたんだろ?
結婚する時に、迷いやら…不安みたいなものはなかったのか?」
「……なかったわけではないさ。
なんせ、私は神を裏切るような行為をしてしまったのだからな。
そのことでの悩みは大きかったよ。
だが……当時の私は今よりもずっと若かった。
情熱がすべてを流し去ったというわけだな…」
マルタンは、他人事のように淡々と呟き、どこか遠くをみつめる。
「情熱か…あんたはいつも冷静なのに、なんだか意外だな。
……俺は年を取ってしまったから熱い情熱がないんだろうか…」
「どうしたんだ?ナディアのことで何かあったのか?」
「いや…そういうわけじゃないんだけど…」
心配そうにリュックをのぞきこむマルタンとは視線を合わせないまま、リュックは言葉を濁した。
「心配しなくとも、君は熱いものを持ってるよ。
それが今は結婚というものに向いてないだけのことだろう。
……早く、海底神殿をみつけないといけないな。
ナディアが年取ってしまう前に…」
「……俺に愛想を尽かす前に…の、間違いだろ?」
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