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079. 扉
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「あの、すみません…売店はどこに…」
「売店ならそこですよ。」
「え?あ…どうもありがとうございました!」
どこかはにかんだような顔で、彼は売店に向かって行った。
それが、彼『関口 潤』との最初の出会いだった。
彼は、入院している知り合いのところに見舞いに来ていて、僕は、入院中だった。
次の日、偶然、売店でまた顔を合わせて…そのことから、僕と彼はなんとなく知り合った。
知り合いの見舞いのついでに、潤は僕の病室にも立ち寄ってくれるようになった。
潤は最初、僕のことを自分と同じ見舞客だと思っていたようだ。
僕が入院してると知ると、潤は驚いたような顔をした。
僕はまだ26歳…
普通に考えれば『死』にはまだ程遠い年齢だ。
それに、傍目には僕はそれほど深刻な病人には見えないみたいだ。
だから、彼にも僕は本当のことは話さなかった。
少しばかり胃の調子が悪いのだと、嘘を吐いた。
少しどころか、僕はすでに命の期限を切られている。
僕は、おそらくクリスマスを祝うことは出来ない。
クリスマスが特に楽しみだったわけではないけれど、もうあの浮かれた街の雰囲気が味わえないのかと思うと、やはりどこか寂しい。
いや、単に死ぬのが怖いからそんなことを思うだけか…
「雨の日っていやだよな。
なんか、死にたくなって来るんだ。」
窓の外を濡らす雨を見上げ、潤は呟く。
「なんで、雨が降ったくらいでそんなこと思うんだよ。」
「なんでって…生きてたってなにも面白いことなんてないしさ。
雨の日に外に出ると、とにかくすごく憂鬱な気分になるんだ。
足元は濡れるし、傘はささないといけないし、面倒じゃないか。
こんな煩わしいなら、もう死んだ方が楽だって…そんな気持ちになるんだ。」
潤の言葉に、苛ついた。
どんなに面白くなくても良い…僕はもっと生きていたい。
こんな病気になんてなりたくなかった。
死ぬのが怖い…
それなのに、潤はたかが雨くらいで『死にたい』という。
それは単に面白くない人生に愚痴を言ってるだけじゃないか。
本当に死にたいわけでもないくせに…!
「……つまんないこと、言うなよな。
ここは病院なんだぞ。」
潤は、外国人みたいに小さく肩をすくめて笑い、その仕草がまた僕を苛々させた。
普段は良い奴なのに…知り合って間もないというのに、年が近かったせいなのか潤とはとても気が合い、急速に仲良くなった。
病院で親しい友人なんて滅多に出来ないから、それは嬉しかったのだけど、潤はたまにおかしなことを言う。
そう、今みたいな話だ。
それだけが僕の気に障る。
僕が『死』に対して過敏になっているだけなのだろうか…?
それとも、そんな話をする時の潤の目が酷く冷たいことが気になるのか…
「売店ならそこですよ。」
「え?あ…どうもありがとうございました!」
どこかはにかんだような顔で、彼は売店に向かって行った。
それが、彼『関口 潤』との最初の出会いだった。
彼は、入院している知り合いのところに見舞いに来ていて、僕は、入院中だった。
次の日、偶然、売店でまた顔を合わせて…そのことから、僕と彼はなんとなく知り合った。
知り合いの見舞いのついでに、潤は僕の病室にも立ち寄ってくれるようになった。
潤は最初、僕のことを自分と同じ見舞客だと思っていたようだ。
僕が入院してると知ると、潤は驚いたような顔をした。
僕はまだ26歳…
普通に考えれば『死』にはまだ程遠い年齢だ。
それに、傍目には僕はそれほど深刻な病人には見えないみたいだ。
だから、彼にも僕は本当のことは話さなかった。
少しばかり胃の調子が悪いのだと、嘘を吐いた。
少しどころか、僕はすでに命の期限を切られている。
僕は、おそらくクリスマスを祝うことは出来ない。
クリスマスが特に楽しみだったわけではないけれど、もうあの浮かれた街の雰囲気が味わえないのかと思うと、やはりどこか寂しい。
いや、単に死ぬのが怖いからそんなことを思うだけか…
「雨の日っていやだよな。
なんか、死にたくなって来るんだ。」
窓の外を濡らす雨を見上げ、潤は呟く。
「なんで、雨が降ったくらいでそんなこと思うんだよ。」
「なんでって…生きてたってなにも面白いことなんてないしさ。
雨の日に外に出ると、とにかくすごく憂鬱な気分になるんだ。
足元は濡れるし、傘はささないといけないし、面倒じゃないか。
こんな煩わしいなら、もう死んだ方が楽だって…そんな気持ちになるんだ。」
潤の言葉に、苛ついた。
どんなに面白くなくても良い…僕はもっと生きていたい。
こんな病気になんてなりたくなかった。
死ぬのが怖い…
それなのに、潤はたかが雨くらいで『死にたい』という。
それは単に面白くない人生に愚痴を言ってるだけじゃないか。
本当に死にたいわけでもないくせに…!
「……つまんないこと、言うなよな。
ここは病院なんだぞ。」
潤は、外国人みたいに小さく肩をすくめて笑い、その仕草がまた僕を苛々させた。
普段は良い奴なのに…知り合って間もないというのに、年が近かったせいなのか潤とはとても気が合い、急速に仲良くなった。
病院で親しい友人なんて滅多に出来ないから、それは嬉しかったのだけど、潤はたまにおかしなことを言う。
そう、今みたいな話だ。
それだけが僕の気に障る。
僕が『死』に対して過敏になっているだけなのだろうか…?
それとも、そんな話をする時の潤の目が酷く冷たいことが気になるのか…
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