Gift

078. 異国の歌

１

「じゃあ、元気でな。」

「余計なこと言ってないで、早く行ったら？
あんたの顔なんて、もう二度と見たくないわ！
マーシャにもそう言っといて！」

男性はなんとも言えない表情を浮かべながら、大きな荷物を背負ってアンナの前から去って行った。



ここはアンナの家。
つい、先日まで、この家には先程去って行ったニコラスとアンナの二人が住んでいた。
数年前に知り合った二人は順調に愛を育み、少し前からはニコラスがこの家に移り住み、一緒に暮らすようになっていた。
もうしばらくしたら、正式に結婚しよう！…そんな話が出始めていた矢先、ニコラスの口から思わぬ言葉が告げられた。



「アンナ…ごめん。
好きな人が出来たんだ…」

その言葉は風のようにアンナの耳を通り抜けた。



「ニコラス…今、なんて言ったの？」

（嘘…嘘に決まってるわ。
だって、ニコラスは、いつもと変わらずずっと優しくて…）



「……本当にごめん…」

「ニコラス…本気なの？
本気で言ってるの？
誰？あなたが好きになった人って誰なの？！」

「……マーシャだ…」

「マーシャ……？」

その名前を聞いたアンナの顔色が変わった。
それもそのはず、マーシャはアンナの親友だったのだから。
ニコラスとつきあうようになって、彼のことを最初に紹介したのもマーシャだった。
三人で遊びに行ったり、食事をすることもあった。
それが、こんな結果を招くとは…

愛する人だけではなく、昔からの親友まで一度に失ってしまったアンナの悲しみは、とても深いものだった。



（神様、あんまりだわ…
もう少しで幸せになれるところだったのに…
それも、こんな形でだめになるなんて、酷過ぎる…！）



夜空をみつめながらアンナの口から、どこか切ないメロディが流れ出す。
言葉の意味もわからない…
どこで覚えたのかもわからない不思議な歌が…