Gift

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
513 / 697
072. 単独行動

しおりを挟む
「い…いてぇ!!
や…やめろ!やめてくれ!
俺は、あんたを試しただけなんだ…」

「試した…?」

「と…とにかく、こいつを抜いてくれ…
た、頼む…」

男は泣きそうな顔で俺に救いを求めた。



「仕方ないな…」

俺は、男の手首からかんざしを引き抜き、止血してやった。

「その棚にある箱の中に傷薬がある。
それを塗って包帯を巻いてくれよ。
いてぇよ~」

「そんなこと知るか。
自分でやったらどうなんだ。」

「頼むよ…痛くてたまらないんだ。」

男は目に涙を浮かべて懇願した。



「面倒だな…」

なんで襲いかかって来た奴の手当てをしてやらなきゃならないんだ…そんなことを考えながらも、俺はそいつの言う通りに手当てをしてやった。



「さぁ、話してもらおうか…
試したとは一体どういうことなんだ?」

「じ…実は…あんたを見掛けた時から、あんたなら最適だと思ったんだ…」

「何のことだ?」

「ガイド達に言われただろう?
川の向こうには行っちゃいけないって。
俺はあっちで働く奴を、今、集めてる所なんだ。
給料はこっちの仕事とは比べ物にはならないぜ!
給料だけじゃない。
あんた程の腕があれば、きっとすぐに偉くもなれる。
あっちはこことは違って、小うるさい規則もないしいろいろと楽しい事がいっぱいだ。」

そう言って男は意味ありげな微笑を浮かべた。



「そんな良い所なら、なぜ、おまえが行かないんだ?」

「だから、俺はこっちでスカウトしないといけないからさ…
あと三人スカウトしたら、俺も向こうに行くつもりなんだ。
あんたが行ってくれたらあと二人だ!
な、頼むよ!
あんたにとっても悪い話じゃないんだしさ…」

「話はわかった。帰れ…」

「帰れって…」

「いいから帰れ!」

俺は男を部屋から追い出した。



危険とはそういうことだったのか…
メリーがまるでユートピアのように思い描いていたこの世界は、すでに悪の芽が芽生えていた。
こういうものはきっと加速を付けてこの世界を汚染していくことだろう。
メリーが、心の奥にそっとしまっていた温かで善なる世界は崩壊寸前ということか…



俺は、誰もいない暗闇の中を、あの門を目指して歩いた。
僅かな外灯しかない暗い道をゆっくりと…



(俺がここにいる必要はもうない…)



門に着くと俺はその場に座り込み、瞑想を始めた。
数珠を手に、一心にあの青い小さな扉を想い描く…

やがて、目の前に現れた青い扉を開け俺はその中に飛び込んだ。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。

imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。 今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。 あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。 「—っ⁉︎」 私の体は、眩い光に包まれた。 次に目覚めた時、そこは、 「どこ…、ここ……。」 何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。

いずれ最強の錬金術師?

小狐丸
ファンタジー
 テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。  女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。  けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。  はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。 **************  本編終了しました。  只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。  お暇でしたらどうぞ。  書籍版一巻〜七巻発売中です。  コミック版一巻〜二巻発売中です。  よろしくお願いします。 **************

最愛から2番目の恋

Mimi
恋愛
 カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。  彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。  以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。  そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。  王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……  彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。  その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……  ※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります  ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、登場しておりません  ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

幸福サーカス団

もちもちピノ
ホラー
幸福サーカス団 なんでも願いを叶えてくれるサーカス団のお話 幸福サーカス団とは 全ての人に幸せを提供するサーカス団 でも幸せにはルールがあるんだ なんでもいいと言ってはダメ 願いを叶えたお客様は決して団員を傷つけてはいけない。 そして願いがどの方向に行ってもサーカス団に責任はない そんなサーカス団とお客様と不思議な事件のお話

処理中です...