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071. 雨に濡れても
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「フィーネ!!」
ライザと隣人のポーラは、道の真ん中に倒れているフィーネをみつけ、診療所に運び込んだ。
*
「先生!フィーネは…フィーネはどうなんです?!」
「外傷もありませんし、身体のどこかが悪いということもありません。
ただ…」
「どうしたんです?
何かあったんですか?」
「実は…」
言いにくそうに医師がフィーネの容態を話し始めた。
フィーネは、記憶の一切を…言葉さえも忘れてしまい、脳の状態はまるで今生まれたばかりの赤子のような状態で、そうなった原因が皆目わからないのだと。
「そ…そんな…!」
「見ての通り、頭にもその他のどこにも外傷はありません。
それなのに娘さんは、一切の記憶を失っているのです。」
医師はそれが腑に落ちないといった顔付きで、首をひねった。
「言葉は教えていけば覚えられると思うのですが、お気の毒ですが、おそらく…失った記憶は戻ることはないでしょう。」
「……そうですか…」
ライザは、立ちあがりフィーネの傍に行くと、その髪をそっと撫でた。
フィーネはそれが気持ち良かったのか、ライザに向かってにっこりと微笑んだ。
「フィーネ…!」
ライザは、フィーネの手をしっかりと握り締めると、再び、医師の方に向き直った。
「先生、気の毒なことなんて何もありませんわ。
また、この子にいろいろなことをたくさん教えてあげられるんですもの…
これからまたたくさんの記憶と思い出を作ってやれるんですもの!
こんな幸せな母親が他にいるかしら…?」
そう言って微笑むライザの瞳から、大きな涙の粒がこぼれて落ちた。
「フィーネ…
あなたの名前は、フィーネよ。
そして、私がママ。
おうちに帰りましょうね!」
ライザは、自分とほとんど背丈の変わらないフィーネを背負った。
「フィーネはとても大きな赤ちゃんね。
育て甲斐があるわ。」
ライザは、家に向かって歩き出した。
温かな背中の温もりに、重さも足の痛みも忘れて…
ライザと隣人のポーラは、道の真ん中に倒れているフィーネをみつけ、診療所に運び込んだ。
*
「先生!フィーネは…フィーネはどうなんです?!」
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ただ…」
「どうしたんです?
何かあったんですか?」
「実は…」
言いにくそうに医師がフィーネの容態を話し始めた。
フィーネは、記憶の一切を…言葉さえも忘れてしまい、脳の状態はまるで今生まれたばかりの赤子のような状態で、そうなった原因が皆目わからないのだと。
「そ…そんな…!」
「見ての通り、頭にもその他のどこにも外傷はありません。
それなのに娘さんは、一切の記憶を失っているのです。」
医師はそれが腑に落ちないといった顔付きで、首をひねった。
「言葉は教えていけば覚えられると思うのですが、お気の毒ですが、おそらく…失った記憶は戻ることはないでしょう。」
「……そうですか…」
ライザは、立ちあがりフィーネの傍に行くと、その髪をそっと撫でた。
フィーネはそれが気持ち良かったのか、ライザに向かってにっこりと微笑んだ。
「フィーネ…!」
ライザは、フィーネの手をしっかりと握り締めると、再び、医師の方に向き直った。
「先生、気の毒なことなんて何もありませんわ。
また、この子にいろいろなことをたくさん教えてあげられるんですもの…
これからまたたくさんの記憶と思い出を作ってやれるんですもの!
こんな幸せな母親が他にいるかしら…?」
そう言って微笑むライザの瞳から、大きな涙の粒がこぼれて落ちた。
「フィーネ…
あなたの名前は、フィーネよ。
そして、私がママ。
おうちに帰りましょうね!」
ライザは、自分とほとんど背丈の変わらないフィーネを背負った。
「フィーネはとても大きな赤ちゃんね。
育て甲斐があるわ。」
ライザは、家に向かって歩き出した。
温かな背中の温もりに、重さも足の痛みも忘れて…
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