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067. 手紙
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「もうおしまいだな…」
幸治は夜の空に向かい、窓際でぽつりと呟いた…
ふと、今までの人生が頭に浮かぶ。
考えてみれば、生まれた時から幸治の人生は幸せとは程遠いものだった。
両親の仲はうまくいっていたが、とても貧しい生活をしていた。
それでも、二人は幸治の生まれたことをたいそう喜び、幸治を大切に育ててきた。
金のあることだけが幸せとは言えない。
おそらく、その時が貧しいながらも自分の一番幸せな時期だったのではないかと幸治には思えた。
そんな小さな幸せの最中、幸治の父が死んだ。
突然の交通事故だった…
幼い幸治には、まだ父親の死の意味さえわからなかった。
その後、母親は女で一つで幸治を育て、そして幸治が15歳の頃、悪い病にかかっていることがわかった。
中学を卒業したら働くという幸治に、自分がなんとかするから高校だけは出るようにと母親は諭してきた。
母親に苦労をかけたくはなかったが、高校を出ることがひいては自分達の将来のためにもなるような気がして幸治もやっとその気になった。
内心では、そうしたい気持ちが強かったため、幸治は一生懸命に勉強した。
ところが、幸治は高校受験に失敗してしまった。
事もあろうに、受験の前日から風邪で高い熱を出してしまったのだ。
無理して試験会場まで行ったものの、その結果は惨憺たるものだった…
我が身の不運を嘆きながらも、一年間みっちり勉強して今度こそは…!…そんな前向きな気持ちを持った矢先の母の病気だった。
母親は日に日に弱って行った。
そして、入院して半年後の寒い朝、幸治の母親は静かに旅立った…
幸治には母親の入院費が借金として遺された。
母親の死を悲しむ暇もなく、幸治は働くことを余儀なくされた。
高校へ通う事など、もはや夢でしかない。
僅かな賃金のために幸治は朝早くから一生懸命汗にまみれて働いた。
やがて、一年と少しが経った頃、やっと幸治は母親の入院費を払い終えた。
それからしばらくすると、僅かとはいえ幸治の生活にゆとりが出て来た。
それは嬉しいことには違いないが、逆に寂しさを感じさせるものでもあった。
追いたてられるように働いていた時は、ただ、毎日、やらなければならないことをこなすのに精一杯で何かを考えるゆとりさえなかった。
それだけに気付かずに済んでいた寂しさや心細さが、今頃になって急に大きく感じられるようになったのだ。
慣れたはずの一人暮らしが、こんなにも味気ないものだったなんて…
誰もいない家に戻るのが寂しくて、幸治はよく一人で街をうろついた。
そんな時、知り合ったのが亜里沙だった。
まるで、モデルのように美しい亜里沙は、一緒に歩いていると自分には不釣合いだということが幸治には痛い程よくわかった。
幸治は夜の空に向かい、窓際でぽつりと呟いた…
ふと、今までの人生が頭に浮かぶ。
考えてみれば、生まれた時から幸治の人生は幸せとは程遠いものだった。
両親の仲はうまくいっていたが、とても貧しい生活をしていた。
それでも、二人は幸治の生まれたことをたいそう喜び、幸治を大切に育ててきた。
金のあることだけが幸せとは言えない。
おそらく、その時が貧しいながらも自分の一番幸せな時期だったのではないかと幸治には思えた。
そんな小さな幸せの最中、幸治の父が死んだ。
突然の交通事故だった…
幼い幸治には、まだ父親の死の意味さえわからなかった。
その後、母親は女で一つで幸治を育て、そして幸治が15歳の頃、悪い病にかかっていることがわかった。
中学を卒業したら働くという幸治に、自分がなんとかするから高校だけは出るようにと母親は諭してきた。
母親に苦労をかけたくはなかったが、高校を出ることがひいては自分達の将来のためにもなるような気がして幸治もやっとその気になった。
内心では、そうしたい気持ちが強かったため、幸治は一生懸命に勉強した。
ところが、幸治は高校受験に失敗してしまった。
事もあろうに、受験の前日から風邪で高い熱を出してしまったのだ。
無理して試験会場まで行ったものの、その結果は惨憺たるものだった…
我が身の不運を嘆きながらも、一年間みっちり勉強して今度こそは…!…そんな前向きな気持ちを持った矢先の母の病気だった。
母親は日に日に弱って行った。
そして、入院して半年後の寒い朝、幸治の母親は静かに旅立った…
幸治には母親の入院費が借金として遺された。
母親の死を悲しむ暇もなく、幸治は働くことを余儀なくされた。
高校へ通う事など、もはや夢でしかない。
僅かな賃金のために幸治は朝早くから一生懸命汗にまみれて働いた。
やがて、一年と少しが経った頃、やっと幸治は母親の入院費を払い終えた。
それからしばらくすると、僅かとはいえ幸治の生活にゆとりが出て来た。
それは嬉しいことには違いないが、逆に寂しさを感じさせるものでもあった。
追いたてられるように働いていた時は、ただ、毎日、やらなければならないことをこなすのに精一杯で何かを考えるゆとりさえなかった。
それだけに気付かずに済んでいた寂しさや心細さが、今頃になって急に大きく感じられるようになったのだ。
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誰もいない家に戻るのが寂しくて、幸治はよく一人で街をうろついた。
そんな時、知り合ったのが亜里沙だった。
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