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064. 水に没む
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(これ、受け取ってくれるかな…)
俺は、ポケットから指輪の入った小箱を取り出し、期待と不安の入り混じった気持ちを感じていた。
その時、後ろからおかしな歌を歌いながら歩いて着た酔っ払いが俺の背中にぶつかり、その拍子に俺の手から小箱が転がり落ちた。
「あ、指輪が……」
小箱は甲板を転がり、微かな水音を立てて河の中に沈んでいく…
俺は、無意識に手すりを乗り越え、派手な水飛沫をあげ青い河に飛びこんだ。
「あ、何をするんだ!!」
河の中の視界は思ったよりも良かった。
俺の目の前を小箱はゆっくりと河底に向かって沈んで行く。
手が届きそうで届かない。
あと少し…後、ほんの少しだ…
俺は、小箱を負いながら水面深く潜って行く…
あれは、アンナさんからもらった大切なものだ。
なんとしてもなくすわけにはいかない!
水をかきながら、俺は必死で手を伸ばした。
掴んだ…!
手の中にしっかりと小箱を掴んだ瞬間、安心してしまったのか、俺の肺は空気を求めて急にもがき始めた。
もがけばもがくほど、身体がうまく動かせない。
うまく動けないことが不安と焦りに拍車をかけた。
鼻と口の中に水が入りこんで来る。
苦しい!
ここまで来て、俺は死んでしまうのか…そう思うと悔しくてたまらない気分だった。
死んでたまるか!
その気持ちとは裏腹に、俺の身体と頭は痺れたようになり、俺はそのまま何もわからなくなった…
*
「ラスティ!しっかりして!
目を覚まして!!」
誰かが俺を呼んでる…
ゆっくりと目をあけるとそこにいたのは泣きじゃくるメアリの姿だった。
そうか、これは夢なんだ…
なんて素敵な夢なんだ。
最期にこんな素敵な夢を見られるなんて、きっと神様のお計らいだな。
「ラスティ!!」
幸せな気分に浸っていた俺の胸に、メアリが抱きついてきた。
その身体は温かくてやわらかくて…まるで、本物みたいだった。
「気がついたか!!
わかるかね?
わしの顔が見えてるかね?」
見知らぬ白髪の男が顔を出しそう言った。
白衣を着てるから、きっと医者だろう。
(医者……?)
「ま、まさか……お、俺、生きてるのか!?」
「当たり前でしょ!」
メアリは大粒の涙をぽろぽろこぼしながら、大きな声でそう叫んだ。
彼女の顔はとても怒っているように見えた。
俺は、ポケットから指輪の入った小箱を取り出し、期待と不安の入り混じった気持ちを感じていた。
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「あ、指輪が……」
小箱は甲板を転がり、微かな水音を立てて河の中に沈んでいく…
俺は、無意識に手すりを乗り越え、派手な水飛沫をあげ青い河に飛びこんだ。
「あ、何をするんだ!!」
河の中の視界は思ったよりも良かった。
俺の目の前を小箱はゆっくりと河底に向かって沈んで行く。
手が届きそうで届かない。
あと少し…後、ほんの少しだ…
俺は、小箱を負いながら水面深く潜って行く…
あれは、アンナさんからもらった大切なものだ。
なんとしてもなくすわけにはいかない!
水をかきながら、俺は必死で手を伸ばした。
掴んだ…!
手の中にしっかりと小箱を掴んだ瞬間、安心してしまったのか、俺の肺は空気を求めて急にもがき始めた。
もがけばもがくほど、身体がうまく動かせない。
うまく動けないことが不安と焦りに拍車をかけた。
鼻と口の中に水が入りこんで来る。
苦しい!
ここまで来て、俺は死んでしまうのか…そう思うと悔しくてたまらない気分だった。
死んでたまるか!
その気持ちとは裏腹に、俺の身体と頭は痺れたようになり、俺はそのまま何もわからなくなった…
*
「ラスティ!しっかりして!
目を覚まして!!」
誰かが俺を呼んでる…
ゆっくりと目をあけるとそこにいたのは泣きじゃくるメアリの姿だった。
そうか、これは夢なんだ…
なんて素敵な夢なんだ。
最期にこんな素敵な夢を見られるなんて、きっと神様のお計らいだな。
「ラスティ!!」
幸せな気分に浸っていた俺の胸に、メアリが抱きついてきた。
その身体は温かくてやわらかくて…まるで、本物みたいだった。
「気がついたか!!
わかるかね?
わしの顔が見えてるかね?」
見知らぬ白髪の男が顔を出しそう言った。
白衣を着てるから、きっと医者だろう。
(医者……?)
「ま、まさか……お、俺、生きてるのか!?」
「当たり前でしょ!」
メアリは大粒の涙をぽろぽろこぼしながら、大きな声でそう叫んだ。
彼女の顔はとても怒っているように見えた。
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