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064. 水に没む
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アンナは、じっとオルゴールをみつめていたが、やがてにっこりと微笑んで受け取ってくれた。
そして、ポケットの中から小さな小箱を取り出した。
「では、私からはこれをあなたに…」
「これは…?」
「ごめんなさいね。
これはたいして価値のない安い石なの。
あなたの大切な人に受け取ってもらえないかしら?
実は、私の二十歳の誕生日に母が無理して買ってくれたもの。
うちは貧乏だったからこんなものでも母は本当に苦労して買ったのよ。」
「そんな大切なもの…受け取れませんよ!」
「……ラスティさん、私に残された時間はもうあまり長くはないの。
私には子供もいなければ、親しいお友達もいない…
ここに置いてても、処分されてしまうだけなのよ。
他に高価な宝石がたくさんあるから、こんなものは捨てられてしまうかもしれないわ。
だから、お願い…どうか受け取って下さいな。」
アンナの話は衝撃的だった。
確かに元気そうには見えなかったが、命の期限まで宣告されていたとは…
彼女が様々なことを赤裸々に話してくれたのはそのためだったのか…
「ありがとう、アンナさん。
大切にします。」
俺は受け取った小箱の蓋を押し開けた。
中に入っていたのは、薄桃色の丸い石が付いたシンプルな指輪だった。
きらきらと煌く事もないが、とても優しい印象の石だった。
俺は、メアリとのことがうまくいってもいかなくても、もう一度アンナの元をを訪ねようと考えた。
出来る事なら、彼女に最期の時が訪れるまで、世話をしてあげたいと。
俺は、そんな気持ちを気取られないように、出来るだけ明るく彼女に別れの挨拶をして屋敷を離れた。
*
船は河沿いで何度か停まりながら、たったの五日で俺の町の近くに着く。
ゆったりと流れ行く青い河を眺めながら、俺は、いろいろなことを考えた。
まずは、これまでのことをメアリに話し、そしてもう一度はっきりと言うんだ。
俺がどれほどメアリのことを愛しているのかを…
そして、これからは今までのような生活はやめ、真面目に働くという決意を話そう…
すぐには信じてもらえないかもしれないが、俺は決して諦めない。
もちろん、アンナのことも話そう…
とりとめもなくそんなことを考えていると、いつの間にか船は俺の町の近くに来ていた。
見なれた教会の高く尖った屋根がうっすらと見えた。
そして、ポケットの中から小さな小箱を取り出した。
「では、私からはこれをあなたに…」
「これは…?」
「ごめんなさいね。
これはたいして価値のない安い石なの。
あなたの大切な人に受け取ってもらえないかしら?
実は、私の二十歳の誕生日に母が無理して買ってくれたもの。
うちは貧乏だったからこんなものでも母は本当に苦労して買ったのよ。」
「そんな大切なもの…受け取れませんよ!」
「……ラスティさん、私に残された時間はもうあまり長くはないの。
私には子供もいなければ、親しいお友達もいない…
ここに置いてても、処分されてしまうだけなのよ。
他に高価な宝石がたくさんあるから、こんなものは捨てられてしまうかもしれないわ。
だから、お願い…どうか受け取って下さいな。」
アンナの話は衝撃的だった。
確かに元気そうには見えなかったが、命の期限まで宣告されていたとは…
彼女が様々なことを赤裸々に話してくれたのはそのためだったのか…
「ありがとう、アンナさん。
大切にします。」
俺は受け取った小箱の蓋を押し開けた。
中に入っていたのは、薄桃色の丸い石が付いたシンプルな指輪だった。
きらきらと煌く事もないが、とても優しい印象の石だった。
俺は、メアリとのことがうまくいってもいかなくても、もう一度アンナの元をを訪ねようと考えた。
出来る事なら、彼女に最期の時が訪れるまで、世話をしてあげたいと。
俺は、そんな気持ちを気取られないように、出来るだけ明るく彼女に別れの挨拶をして屋敷を離れた。
*
船は河沿いで何度か停まりながら、たったの五日で俺の町の近くに着く。
ゆったりと流れ行く青い河を眺めながら、俺は、いろいろなことを考えた。
まずは、これまでのことをメアリに話し、そしてもう一度はっきりと言うんだ。
俺がどれほどメアリのことを愛しているのかを…
そして、これからは今までのような生活はやめ、真面目に働くという決意を話そう…
すぐには信じてもらえないかもしれないが、俺は決して諦めない。
もちろん、アンナのことも話そう…
とりとめもなくそんなことを考えていると、いつの間にか船は俺の町の近くに来ていた。
見なれた教会の高く尖った屋根がうっすらと見えた。
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