442 / 697
064. 水に没む
7
しおりを挟む
その後、町を出た俺はあてもなく街道沿いを歩いていた。
しばらく歩くと、俺は分かれ道に出くわした。
一方はそのまま街道に沿って行く道、そしてもう一方は森へと続く道だった。
俺は、森への道を選んだ。
その方が人に会う確率も少ないように思えたからだ。
森の中はどこか空気が澄んでいるようで、少しだけ爽快な気分になれた。
微かに聞こえた水の音から俺は小さな泉をみつけ、そこで冷たい水を飲むと、気持ちはますます良くなった。
木の根元にもたれ、俺はウェイドにもたされた包みを開いた。
中から出て来たのは、木の質感そのものの素朴なオルゴール。
しかし、それにはとても繊細な模様の彫刻が施されていた。
その腕前に感心しながら、俺はオルゴールの蓋をそっと押し開けた。
聞こえて来たのは…題名はわからないが、確か有名なクラシックの曲だったと思う。
なんとも言えない優しい音色に、俺は目を閉じ、うっとりと聞きほれた。
閉じた目の中に浮かんで来るのはやはりメアリのことで…俺はいつの間にか頬を涙で濡らしていた。
「素晴らしい音色ね…」
背中から不意に聞こえて来た声に、俺は気付かれないように袖で涙を拭い振り向いた。
そこに立っていたのは上品な初老の女性だった。
「もう少し効かせてもらって良いかしら?」
俺が答える前に女性は言葉を続けた。
「ええ、どうぞ…」
お座りになりますか?と尋ねようとして、俺は彼女が杖を持っていることに気が付いた。
おそらく足が悪いのだろう。
立たせたままなのは気になったが、もしそうなら座る方が苦になるだろうと考え、俺はそれ以上何も言わなかった。
やがて、オルゴールのねじが切れ、森の中の演奏会は幕を閉じた。
「ありがとう。
心が癒されたわ。
あの…宜しければ、お茶でもいかが?
うちはすぐ傍なの…」
思いがけない誘いに、俺は一瞬戸惑ったが、足の悪い彼女を一人で帰すのが心配になり、俺はその誘いを受けることにした。
「ええ、喜んで…」
しばらく歩くと、俺は分かれ道に出くわした。
一方はそのまま街道に沿って行く道、そしてもう一方は森へと続く道だった。
俺は、森への道を選んだ。
その方が人に会う確率も少ないように思えたからだ。
森の中はどこか空気が澄んでいるようで、少しだけ爽快な気分になれた。
微かに聞こえた水の音から俺は小さな泉をみつけ、そこで冷たい水を飲むと、気持ちはますます良くなった。
木の根元にもたれ、俺はウェイドにもたされた包みを開いた。
中から出て来たのは、木の質感そのものの素朴なオルゴール。
しかし、それにはとても繊細な模様の彫刻が施されていた。
その腕前に感心しながら、俺はオルゴールの蓋をそっと押し開けた。
聞こえて来たのは…題名はわからないが、確か有名なクラシックの曲だったと思う。
なんとも言えない優しい音色に、俺は目を閉じ、うっとりと聞きほれた。
閉じた目の中に浮かんで来るのはやはりメアリのことで…俺はいつの間にか頬を涙で濡らしていた。
「素晴らしい音色ね…」
背中から不意に聞こえて来た声に、俺は気付かれないように袖で涙を拭い振り向いた。
そこに立っていたのは上品な初老の女性だった。
「もう少し効かせてもらって良いかしら?」
俺が答える前に女性は言葉を続けた。
「ええ、どうぞ…」
お座りになりますか?と尋ねようとして、俺は彼女が杖を持っていることに気が付いた。
おそらく足が悪いのだろう。
立たせたままなのは気になったが、もしそうなら座る方が苦になるだろうと考え、俺はそれ以上何も言わなかった。
やがて、オルゴールのねじが切れ、森の中の演奏会は幕を閉じた。
「ありがとう。
心が癒されたわ。
あの…宜しければ、お茶でもいかが?
うちはすぐ傍なの…」
思いがけない誘いに、俺は一瞬戸惑ったが、足の悪い彼女を一人で帰すのが心配になり、俺はその誘いを受けることにした。
「ええ、喜んで…」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ファントーシュ 私は魔法が使えない
かける
ファンタジー
アカネ・シズクノは小さいころから魔法が使えなかった。
自分はいつか魔女になるんだ。そう願わぬ願いを毎日信じていた。
ある日、アカネは師匠となる魔女と出会った。
アカネは魔女についていき、弟子となった。
物語はそうしたアカネが成長し、魔法使いとなったお話。
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

悪役貴族に転生した俺が鬱展開なシナリオをぶっ壊したら、ヒロインたちの様子がおかしいです
木嶋隆太
ファンタジー
事故で命を落とした俺は、異世界の女神様に転生を提案される。選んだ転生先は、俺がやりこんでいたゲームの世界……と思っていたのだが、神様の手違いで、同会社の別ゲー世界に転生させられてしまった! そのゲームは登場人物たちが可哀想なくらいに死にまくるゲームだった。イベボス? 負けイベ? 知るかそんなもん。原作ストーリーを破壊していく。あれ? 助けたヒロインたちの目のハイライトが……?
※毎日07:01投稿予定!
ヒロインは始まる前に退場していました
サクラ
ファンタジー
とある乙女ゲームの世界で目覚めたのは、原作を知らない一人の少女
産まれた時点で本来あるべき道筋を外れてしまっていた彼女は、知らない世界でどう生き抜くのか。
母の愛情、突然の別れ、事故からの死亡扱いで目覚めた場所はゴミ捨て場
捨てる神あれば拾う神あり?
人の温かさに触れて成長する少女に再び訪れる試練。
そして、本来のヒロインが現れない世界ではどんな未来が訪れるのか。
主人公が7歳になる頃までは平和、ホノボノが続きます。
ダークファンタジーになる予定でしたが、主人公ヴィオの天真爛漫キャラに ダーク要素は少なめとなっております。
同作品を『小説を読もう』『カクヨム』でも配信中。カクヨム先行となっております
追いつくまで しばらくの間 0時、12時の一日2話更新としております
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
幸福サーカス団
もちもちピノ
ホラー
幸福サーカス団
なんでも願いを叶えてくれるサーカス団のお話
幸福サーカス団とは
全ての人に幸せを提供するサーカス団
でも幸せにはルールがあるんだ
なんでもいいと言ってはダメ
願いを叶えたお客様は決して団員を傷つけてはいけない。
そして願いがどの方向に行ってもサーカス団に責任はない
そんなサーカス団とお客様と不思議な事件のお話

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~
m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。
書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。
【第七部開始】
召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。
一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。
だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった!
突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか!
魔物に襲われた主人公の運命やいかに!
※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。
※カクヨムにて先行公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる