438 / 697
064. 水に没む
3
しおりを挟む
俺は、よろよろと立ち上がった。
このまま座っていたら、ますます悲しくなって立ちあがれなくなってしまいそうな気がしたから。
あてもなく、ただただ道なりに進んでいると、どこからか焦げ臭い臭いが俺の鼻をくすぐった。
それとほぼ同時に、少し先の小屋から、空に向かって一条の黒い煙が立ち昇るのが見えた。
「火事だーーー!
誰か来てくれーーー!」
小屋の横にしゃがみこんだ老人が、慌てた様子で叫ぶのが見えた。
街道には俺の他には誰もいない。
俺の身体は、老人の声に反応し咄嗟に走りだしていた。
小屋の裏手に回りこむと、その脇に積まれた干草と小屋の壁が赤い炎に包まれていた。
「爺さん、ここは危険だ。
早くここを離れないと…!」
「それが、慌てて転んだ拍子に足をくじいて…うっ…」
老人は、立ちあがろうと足に力を込めた途端、痛さで顔をしかめた。
俺は、爺さんを背負うと、その場を駆け出した。
*
「この度は、本当にどうもありがとうございました。」
送り届けた老人の家は、思ってたよりも大きなものだった。
その晩は夕食をご馳走になった上に泊めてもらい、次の朝、発つ時には息子が謝礼の金と薬まで持たせてくれた。
家を出て、街道の片隅でそっと封筒を開けて見ると、その晩の宿賃になりそうな額が入っていた。
薬の包みはやけに大きいと思っていたら、爺さんを助ける時に出来た小さなやけどのための薬だけではなく、腹痛や頭痛の薬や風邪薬までが入っていた。
俺があちこちを旅していると嘘を吐いたから、気を利かせてくれたのだろう。
(どうせなら、あっさり死ねる薬でもくれれば良いものを…)
爺さんのことで一瞬は忘れていた辛い気持ちがまた押し寄せ、俺はそんなことを考えて顔を曇らせた。
沈んだ気分を吹き飛ばすため、俺は次の町に着いたら、もらった金を使って飲めるだけ酒を飲もうと考えた。
たとえ一時でもメアリのことが忘れられるのなら…
そう思うと、歩き出す足にも力がこもった。
街道をしばらく進むと森があった。
立て札によると、その森を抜けた所に町があるようだ。
「あ、おじさん!!」
向こう側から走って来る少年に俺は声をかけられた。
少年はよほど遠くから走って来たのか、そう暑くもない季節だというのに、額に玉の汗を浮かべていた。
このまま座っていたら、ますます悲しくなって立ちあがれなくなってしまいそうな気がしたから。
あてもなく、ただただ道なりに進んでいると、どこからか焦げ臭い臭いが俺の鼻をくすぐった。
それとほぼ同時に、少し先の小屋から、空に向かって一条の黒い煙が立ち昇るのが見えた。
「火事だーーー!
誰か来てくれーーー!」
小屋の横にしゃがみこんだ老人が、慌てた様子で叫ぶのが見えた。
街道には俺の他には誰もいない。
俺の身体は、老人の声に反応し咄嗟に走りだしていた。
小屋の裏手に回りこむと、その脇に積まれた干草と小屋の壁が赤い炎に包まれていた。
「爺さん、ここは危険だ。
早くここを離れないと…!」
「それが、慌てて転んだ拍子に足をくじいて…うっ…」
老人は、立ちあがろうと足に力を込めた途端、痛さで顔をしかめた。
俺は、爺さんを背負うと、その場を駆け出した。
*
「この度は、本当にどうもありがとうございました。」
送り届けた老人の家は、思ってたよりも大きなものだった。
その晩は夕食をご馳走になった上に泊めてもらい、次の朝、発つ時には息子が謝礼の金と薬まで持たせてくれた。
家を出て、街道の片隅でそっと封筒を開けて見ると、その晩の宿賃になりそうな額が入っていた。
薬の包みはやけに大きいと思っていたら、爺さんを助ける時に出来た小さなやけどのための薬だけではなく、腹痛や頭痛の薬や風邪薬までが入っていた。
俺があちこちを旅していると嘘を吐いたから、気を利かせてくれたのだろう。
(どうせなら、あっさり死ねる薬でもくれれば良いものを…)
爺さんのことで一瞬は忘れていた辛い気持ちがまた押し寄せ、俺はそんなことを考えて顔を曇らせた。
沈んだ気分を吹き飛ばすため、俺は次の町に着いたら、もらった金を使って飲めるだけ酒を飲もうと考えた。
たとえ一時でもメアリのことが忘れられるのなら…
そう思うと、歩き出す足にも力がこもった。
街道をしばらく進むと森があった。
立て札によると、その森を抜けた所に町があるようだ。
「あ、おじさん!!」
向こう側から走って来る少年に俺は声をかけられた。
少年はよほど遠くから走って来たのか、そう暑くもない季節だというのに、額に玉の汗を浮かべていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
三百字 -三百字の短編小説集-
福守りん
ライト文芸
三百字以内であること。
小説であること。
上記のルールで書かれた小説です。
二十五才~二十八才の頃に書いたものです。
今だったら書けない(書かない)ような言葉がいっぱい詰まっています。
それぞれ独立した短編が、全部で二十話です。
一話ずつ更新していきます。
【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。
本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。

転生調理令嬢は諦めることを知らない!
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生幼女は幸せを得る。
泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる