437 / 697
064. 水に没む
2
しおりを挟む
(う、嘘だ……)
去って行くメアリの後ろ姿を見送りながら、俺は身動き一つ出来ないでいた。
その晩、俺は、眠れないままに朝を迎えた。
朝が来るまで、天井をみつめながら、俺はずっと考えていた。
一体、なぜ、こんなことになったのか…と。
俺の横で眠る女が寝返りを打った時、俺ははたとその原因に思い当たった。
(そうだ!
メアリは妬いてるんだ!)
俺は、女が目覚めると別れ話を切り出し、そのまま家を出た。
背中に聞こえる女の罵声も少しも気にはならなかった。
俺はその足で、メアリを訪ね、女と別れたことを告げた。
これで、彼女は俺を受け入れる…
俺はそう信じていたのだが、彼女の言葉はその期待を裏切った。
定職にも付かずに毎日遊んでるような人を好きになれる筈がない…と。
そう言うと、彼女は乱暴に扉を閉め、その扉の向こうから「二度と私の前には現れないで!」と言ったのを最後に、俺がどれだけノックしようと叫ぼうと、扉を開けてくれることはなかった。
俺は、その扉が開くことに僅かな望みをかけて、ずっと立ち尽し…
たまたま通りがかった知り合いに声をかけられ、ふと気が付くと、あたりは暗くなっていた。
そんな無様な姿を知り合いに見られた恥ずかしさと悲しさと…なんとも言えないざわついた気持ちを胸に、俺はそのまま走り出した。
走って、走って、一晩中、闇の中を走り続け、いつの間にか街道の脇で眠ってた。
酒も飲まずに、あんなにおかしな行動をしたのはあの日が初めてのことだった。
それから、俺は五つの町を通り過ぎた。
食べる事と眠る場所はその日の運次第。
酒場で知り合った酔っ払いにおごってもらったり、町で声をかけた女に泊まらせてもらったりしながらこの一ヶ月を過してきたが、いまだに俺の心は少しも癒されない。
メアリのこと…あの日の記憶は少しも色褪せない。
(……俺…もう疲れたよ……)
ここ数日は、気持ちがイライラしておさまらなかった。
急に悲しさで押し潰されそうになったり、自分の感情がコントロール出来ない。
俺は、相当、神経をやられてしまってるようだ。
(もうダメかもしれないな…)
ふと、そんな想いが頭をよぎり、地面の上に小さな雫が毀れた。
去って行くメアリの後ろ姿を見送りながら、俺は身動き一つ出来ないでいた。
その晩、俺は、眠れないままに朝を迎えた。
朝が来るまで、天井をみつめながら、俺はずっと考えていた。
一体、なぜ、こんなことになったのか…と。
俺の横で眠る女が寝返りを打った時、俺ははたとその原因に思い当たった。
(そうだ!
メアリは妬いてるんだ!)
俺は、女が目覚めると別れ話を切り出し、そのまま家を出た。
背中に聞こえる女の罵声も少しも気にはならなかった。
俺はその足で、メアリを訪ね、女と別れたことを告げた。
これで、彼女は俺を受け入れる…
俺はそう信じていたのだが、彼女の言葉はその期待を裏切った。
定職にも付かずに毎日遊んでるような人を好きになれる筈がない…と。
そう言うと、彼女は乱暴に扉を閉め、その扉の向こうから「二度と私の前には現れないで!」と言ったのを最後に、俺がどれだけノックしようと叫ぼうと、扉を開けてくれることはなかった。
俺は、その扉が開くことに僅かな望みをかけて、ずっと立ち尽し…
たまたま通りがかった知り合いに声をかけられ、ふと気が付くと、あたりは暗くなっていた。
そんな無様な姿を知り合いに見られた恥ずかしさと悲しさと…なんとも言えないざわついた気持ちを胸に、俺はそのまま走り出した。
走って、走って、一晩中、闇の中を走り続け、いつの間にか街道の脇で眠ってた。
酒も飲まずに、あんなにおかしな行動をしたのはあの日が初めてのことだった。
それから、俺は五つの町を通り過ぎた。
食べる事と眠る場所はその日の運次第。
酒場で知り合った酔っ払いにおごってもらったり、町で声をかけた女に泊まらせてもらったりしながらこの一ヶ月を過してきたが、いまだに俺の心は少しも癒されない。
メアリのこと…あの日の記憶は少しも色褪せない。
(……俺…もう疲れたよ……)
ここ数日は、気持ちがイライラしておさまらなかった。
急に悲しさで押し潰されそうになったり、自分の感情がコントロール出来ない。
俺は、相当、神経をやられてしまってるようだ。
(もうダメかもしれないな…)
ふと、そんな想いが頭をよぎり、地面の上に小さな雫が毀れた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
☆10/25からは、毎日18時に更新予定!
致死量の愛と泡沫に+
藤香いつき
キャラ文芸
近未来の終末世界。
世間から隔離された森の城館で、ひっそりと暮らす8人の青年たち。
記憶のない“あなた”は彼らに拾われ、共に暮らしていたが——外の世界に攫われたり、囚われたりしながらも、再び城で平穏な日々を取り戻したところ。
泡沫(うたかた)の物語を終えたあとの、日常のお話を中心に。
※致死量シリーズ
【致死量の愛と泡沫に】その後のエピソード。
表紙はJohn William Waterhous【The Siren】より。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
ヒロインは始まる前に退場していました
サクラ
ファンタジー
とある乙女ゲームの世界で目覚めたのは、原作を知らない一人の少女
産まれた時点で本来あるべき道筋を外れてしまっていた彼女は、知らない世界でどう生き抜くのか。
母の愛情、突然の別れ、事故からの死亡扱いで目覚めた場所はゴミ捨て場
捨てる神あれば拾う神あり?
人の温かさに触れて成長する少女に再び訪れる試練。
そして、本来のヒロインが現れない世界ではどんな未来が訪れるのか。
主人公が7歳になる頃までは平和、ホノボノが続きます。
ダークファンタジーになる予定でしたが、主人公ヴィオの天真爛漫キャラに ダーク要素は少なめとなっております。
同作品を『小説を読もう』『カクヨム』でも配信中。カクヨム先行となっております
追いつくまで しばらくの間 0時、12時の一日2話更新としております

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
【完結】長男は悪役で次男はヒーローで、私はへっぽこ姫だけど死亡フラグは折って頑張ります!
くま
ファンタジー
2022年4月書籍化いたしました!
イラストレータはれんたさん。とても可愛いらしく仕上げて貰えて感謝感激です(*≧∀≦*)
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
池に溺れてしまったこの国のお姫様、エメラルド。
あれ?ここって前世で読んだ小説の世界!?
長男の王子は悪役!?次男の王子はヒーロー!?
二人共あの小説のキャラクターじゃん!
そして私は……誰だ!!?え?すぐ死ぬキャラ!?何それ!兄様達はチート過ぎるくらい魔力が強いのに、私はなんてこった!!
へっぽこじゃん!?!
しかも家族仲、兄弟仲が……悪いよ!?
悪役だろうが、ヒーローだろうがみんな仲良くが一番!そして私はへっぽこでも生き抜いてみせる!!
とあるへっぽこ姫が家族と仲良くなる作戦を頑張りつつ、みんなに溺愛されまくるお話です。
※基本家族愛中心です。主人公も幼い年齢からスタートなので、恋愛編はまだ先かなと。
それでもよろしければエメラルド達の成長を温かく見守ってください!
※途中なんか残酷シーンあるあるかもなので、、、苦手でしたらごめんなさい
※不定期更新なります!
現在キャラクター達のイメージ図を描いてます。随時更新するようにします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる