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057. 陽炎
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「俺もせめて獅子族や狼族に生まれて来たかったなぁ…」
ケンタロウは空を見上げながら、独り言のように呟いた。
狼族や獅子族は、人間の数とは比較にはならないものの、けっこう数が多い。
しかも、身体が大きく力が強いから、人間達も彼らのことは頼りにしてたり、逆に恐れてたりする場合が多い。
その上、彼らはどこか馴染みやすいというのかひょうきんで人気が高い。
ごく稀ではあるけれど、中には人間と結婚した獅子族がいるとかいう話さえ聞いたことがある。
それに引き換えトカゲ族は極端に数が少なく、僕は16歳で孤児院を旅立ったあの日から、まだ三人としか出会ったことがない。
そのうちの二人は夫婦か兄弟だと思うんだけど、ただすれ違っただけで話はしなかった。
もう一人はけっこうな老人で、世界の北の果てにトカゲの国があるって言っていた。
でも、それは伝説みたいなあてにならない話だ。
きっと、一人で旅をしてる僕を勇気付けようと思って言ってくれた作り話じゃないかなと思ってる。
「トカチェノフス、どうかしたのか?」
「……トカチェアノフだよ。」
「あ、ごめん、ごめん。
俺、頭悪いから、なかなか覚えられなくて…
ところで、おまえはどこまで行くつもりなんだ?」
「どこって…別に行くあてはないよ。
ただ…同じ所にずっとはいられないから、なんとなく旅をしてるだけなんだ。」
「そうか…おまえも苦労してるんだな…
俺も似たようなもんさ。
でも、この世界のどこかに俺達の種族の国があるって聞いたことがあるから…
だから、俺、その国を探してるんだ。」
「……そう。」
きっと、彼も優しい誰かにそんな嘘を吐かれただろうなと思った。
僕やケンタロウを可哀想だと思って、希望を持たせるために吐いてくれた優しい嘘。
僕はそんなもの信じてなかったけど、ケンタロウはすっかり信じてるみたいだった。
きっと、ケンタロウは僕なんかよりずっと素直で良い奴なんだ。
僕達は、お互い、誰かと話をすることに飢えていたのか、いろんなことを話しあい、気が付いたらいつの間にか太陽が翳り始めていた。
ケンタロウは空を見上げながら、独り言のように呟いた。
狼族や獅子族は、人間の数とは比較にはならないものの、けっこう数が多い。
しかも、身体が大きく力が強いから、人間達も彼らのことは頼りにしてたり、逆に恐れてたりする場合が多い。
その上、彼らはどこか馴染みやすいというのかひょうきんで人気が高い。
ごく稀ではあるけれど、中には人間と結婚した獅子族がいるとかいう話さえ聞いたことがある。
それに引き換えトカゲ族は極端に数が少なく、僕は16歳で孤児院を旅立ったあの日から、まだ三人としか出会ったことがない。
そのうちの二人は夫婦か兄弟だと思うんだけど、ただすれ違っただけで話はしなかった。
もう一人はけっこうな老人で、世界の北の果てにトカゲの国があるって言っていた。
でも、それは伝説みたいなあてにならない話だ。
きっと、一人で旅をしてる僕を勇気付けようと思って言ってくれた作り話じゃないかなと思ってる。
「トカチェノフス、どうかしたのか?」
「……トカチェアノフだよ。」
「あ、ごめん、ごめん。
俺、頭悪いから、なかなか覚えられなくて…
ところで、おまえはどこまで行くつもりなんだ?」
「どこって…別に行くあてはないよ。
ただ…同じ所にずっとはいられないから、なんとなく旅をしてるだけなんだ。」
「そうか…おまえも苦労してるんだな…
俺も似たようなもんさ。
でも、この世界のどこかに俺達の種族の国があるって聞いたことがあるから…
だから、俺、その国を探してるんだ。」
「……そう。」
きっと、彼も優しい誰かにそんな嘘を吐かれただろうなと思った。
僕やケンタロウを可哀想だと思って、希望を持たせるために吐いてくれた優しい嘘。
僕はそんなもの信じてなかったけど、ケンタロウはすっかり信じてるみたいだった。
きっと、ケンタロウは僕なんかよりずっと素直で良い奴なんだ。
僕達は、お互い、誰かと話をすることに飢えていたのか、いろんなことを話しあい、気が付いたらいつの間にか太陽が翳り始めていた。
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