Gift

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
368 / 697
054. 潜む影

しおりを挟む




「あぁ、食った、食った。
もう入らないぞ!」

俺は、宿屋で埃っぽかった身体をきれいに洗い流し、特別たいしたものはなかったとはいえ腹いっぱい食べて、心の底から満足した。
その間もランスロットは落ちつきなくあたりをきょろきょろしていたが、変わったことはなにもなかった。



「ほら、何もなかっただろ?」

ランスロットは、それでもまだ何か心にひっかかってるらしく、その晩は、奴の希望により同じ部屋に泊まることになった。
今までの俺なら、誰かと同じ部屋に泊まるなんてことは絶対に出来なかったが、奴には俺の秘密はもうバレてしまってる。
だから、それで奴が安心するなら…と、同室にすることを承諾したんだ。
……なぁんて、路銀を全部出してもらってる身で、そんな偉そうなことは言えないんだけど…



「……ええ、確かに…
でも、夜はわかりませんよ。
今夜は私が朝までここで見張ってますから、ルークさんはゆっくりお休み下さい。」

ランスロットは、きっちりと服を着込み、腰に剣を差したままの姿でそう言った。



「おまえだけに、そんなことをさせるなんて、出来るわけないだろ。
……って、言いたい所だけど、俺、本当に眠いんだ。
町に着いてからも何も変わったことはなかったし、今夜も大丈夫だと思うぜ。
おまえも休めよ。
今日は疲れただろ?」

「私なら大丈夫です。」

そう答えた奴の表情は、まさに剣士って感じで毅然としてた。
ただでさえ格好良いのに、性格までこんなじゃ決まり過ぎだろ!
奴に引き換え、俺と来たら、ぼさぼさの髪でちっちゃくなる時間が迫ってるから裸で毛布にくるまってる。
なんでこうも違うんだ!?
俺は、奴にちょっとしたジェラシーを感じていた。
だけど、そんなジェラシーもどこへやら。
すでに俺は眠気に負けそうになっていて、堪える間もなく大きなあくびをしてしまった。



「じゃ、夜中になったら起こしてくれ。
交代するから。
あ、それと、俺、もうじき身体があれだけど……気にしないでくれ。
でも、うっかりして俺の上に寝転んだりはしないでくれよ。
潰れてしまうのはいやだからな。」

夜中に起きられる自信なんかなかったが、一応、悔しいのと申し訳ない気持ちから、俺はそんなことを口走った。
瞼はもう半分閉じている。



「わかってますよ。
さ、ルークさんは早くお休み下さい。」

その声を聞き終わったと同時に、俺はすっかり眠りに落ちていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。

克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。

死を取り扱う精霊の物語

Spitfire
ファンタジー
ある企画に参加してくと共に作成している話 初めて小説と言うものを書くので、脱字やなんやらが多いと思われます。暖かい目で見守ってくれるか、指摘をしてくれるとありがたいです!

蓮華

釜瑪 秋摩
ファンタジー
小さな島国。 荒廃した大陸の四国はその豊かさを欲して幾度となく侵略を試みて来る。 国の平和を守るために戦う戦士たち、その一人は古より語られている伝承の血筋を受け継いだ一人だった。 守る思いの強さと迷い、悩み。揺れる感情の向かう先に待っていたのは――

二人の転生伯爵令嬢の比較

紅禰
ファンタジー
中世の考えや方向性が強く残る世界に転生した二人の少女。 同じ家に双子として生まれ、全く同じ教育を受ける二人の違いは容姿や考え方、努力するかしないか。 そして、ゲームの世界だと思い込むか、中世らしき不思議な世界と捉えるか。 片手で足りる違いだけ、後は全く同じ環境で育つ二人が成長と共に周りにどう思われるのか、その比較をご覧ください。 処女作になりますので、おかしなところや拙いところがあるかと思いますが、よろしければご覧になってみてください。

処理中です...