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050. 過去・現在・未来
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安宿に入ったビリーは、粗末な硬いベッドに横になりカードをみつめる。
(ジュディと別れるにはどうすれば良い?
ジュディにつきあってくれと言われた日か…?
馬鹿な…それがいつだったかなんて正確な日付けなど覚えているはずがない。
じゃあ、いつだ?
結婚した日か?
いや、それじゃあダメだ。
あの女のことだ。
簡単に諦めるとは思えねぇ。
しつこくつきまとわれてその日じゃない日に結婚することになるかもしれない。
ならいつだ?
……そうだ!
ジュディと知り合わなければ良いんだ。
端からあいつと知り合ってさえいなければ、結婚することだってありえない。
でも、そうするためには、いつのどんな出来事をやり直せば…?)
ビリーは、過去に想いを馳せた。
とても幸せだとは思えないろくでもない過去…
なぜ、自分はこんなことになってしまったのかを考えた。
(そうだ、母さんがあんなろなくでなしと再婚さえしなければ…)
ビリーが、10歳の時に母親は再婚した。
実の父親は、甲斐性こそなかったが家族には優しい父親だった。
そんな父親はビリーが5歳の時に、馬車にひかれてあっけなく死んでしまった。
元々裕福ではなかった生活がさらに苦しくなった。
ビリーを育てるため、やがて母は夜は酒場で働くようになり、そこでロイスに出会い再婚した。
ロイスは酒癖が悪く、母親やビリーに毎晩のように酷い暴力を奮った。
それが原因でビリーはぐれた。
札付きの不良と呼ばれるようになってしまった。
ジュディと知り合ったあの町に引っ越したのも、再婚相手がそう望んだからだった。
(そうだ…あの再婚がなければもっとまともな人生を送れてたに違いない。
母親の再婚した日は覚えている。
誕生日が結婚記念日だから忘れないとよく言ってたから。
そういえば、俺はあの頃、母さんがロイスなんかじゃなくてマイケルさんと結婚すれば良いと思っていたっけ…マイケルさんは俺にもいつも優しくしてくれた。
そうだ!そうなっていれば、俺達は皆、幸せになれたんだ!)
マイケルとは、近所に住む仕立て屋の主人で、妻とは折り合いが悪く、よく実家に戻っていたようだ。
妻はいかにも神経質そうでとっつきも悪かったため、幼いビリーは言葉を交わした事もほとんどなかったが、主人のマイケルの方はビリーの家庭の事情を知っていたのか、お菓子を買ってくれたり、遊んでくれることもあった。
いつも穏やかで声を荒げるようなことのない物静かな男で、それがどことなくビリーに実の父親を思い出させていたのかもしれない。
ビリーは、カードに母親が再婚した日付を書き入れた。
「母さんがロイスではなくマイケルさんと再婚する。」
ビリーは、書いたカードを見て微笑んだ。
こんなカードで過去が変えられるはずがない。
過去をやり直すなんて誰にも出来ないこと…それがわかっているからこそ、人はそんなことを空想してしまうのかもしれない。
現在の状況が良くなければ良くない程…過去のせいにしたがるのだ。
「あの時、こうしていなければ…」
そんなつまらないことを考えてしまうのだ。
ビリーは、そんなとりとめのない物思いに浸りながら、カードを枕の下にそっと滑りこませた。
(良い夢くらいは見られるかもしれないな…)
ベッドの上で小瓶の酒を飲み、やがてビリーはいつの間にか眠りに落ちていた。
(ジュディと別れるにはどうすれば良い?
ジュディにつきあってくれと言われた日か…?
馬鹿な…それがいつだったかなんて正確な日付けなど覚えているはずがない。
じゃあ、いつだ?
結婚した日か?
いや、それじゃあダメだ。
あの女のことだ。
簡単に諦めるとは思えねぇ。
しつこくつきまとわれてその日じゃない日に結婚することになるかもしれない。
ならいつだ?
……そうだ!
ジュディと知り合わなければ良いんだ。
端からあいつと知り合ってさえいなければ、結婚することだってありえない。
でも、そうするためには、いつのどんな出来事をやり直せば…?)
ビリーは、過去に想いを馳せた。
とても幸せだとは思えないろくでもない過去…
なぜ、自分はこんなことになってしまったのかを考えた。
(そうだ、母さんがあんなろなくでなしと再婚さえしなければ…)
ビリーが、10歳の時に母親は再婚した。
実の父親は、甲斐性こそなかったが家族には優しい父親だった。
そんな父親はビリーが5歳の時に、馬車にひかれてあっけなく死んでしまった。
元々裕福ではなかった生活がさらに苦しくなった。
ビリーを育てるため、やがて母は夜は酒場で働くようになり、そこでロイスに出会い再婚した。
ロイスは酒癖が悪く、母親やビリーに毎晩のように酷い暴力を奮った。
それが原因でビリーはぐれた。
札付きの不良と呼ばれるようになってしまった。
ジュディと知り合ったあの町に引っ越したのも、再婚相手がそう望んだからだった。
(そうだ…あの再婚がなければもっとまともな人生を送れてたに違いない。
母親の再婚した日は覚えている。
誕生日が結婚記念日だから忘れないとよく言ってたから。
そういえば、俺はあの頃、母さんがロイスなんかじゃなくてマイケルさんと結婚すれば良いと思っていたっけ…マイケルさんは俺にもいつも優しくしてくれた。
そうだ!そうなっていれば、俺達は皆、幸せになれたんだ!)
マイケルとは、近所に住む仕立て屋の主人で、妻とは折り合いが悪く、よく実家に戻っていたようだ。
妻はいかにも神経質そうでとっつきも悪かったため、幼いビリーは言葉を交わした事もほとんどなかったが、主人のマイケルの方はビリーの家庭の事情を知っていたのか、お菓子を買ってくれたり、遊んでくれることもあった。
いつも穏やかで声を荒げるようなことのない物静かな男で、それがどことなくビリーに実の父親を思い出させていたのかもしれない。
ビリーは、カードに母親が再婚した日付を書き入れた。
「母さんがロイスではなくマイケルさんと再婚する。」
ビリーは、書いたカードを見て微笑んだ。
こんなカードで過去が変えられるはずがない。
過去をやり直すなんて誰にも出来ないこと…それがわかっているからこそ、人はそんなことを空想してしまうのかもしれない。
現在の状況が良くなければ良くない程…過去のせいにしたがるのだ。
「あの時、こうしていなければ…」
そんなつまらないことを考えてしまうのだ。
ビリーは、そんなとりとめのない物思いに浸りながら、カードを枕の下にそっと滑りこませた。
(良い夢くらいは見られるかもしれないな…)
ベッドの上で小瓶の酒を飲み、やがてビリーはいつの間にか眠りに落ちていた。
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