Gift

040. 月の慰め

６

（……こんなことなら、元気になんかならなきゃ良かった。
そうすれば、こんな深い悲しみを知る事はなかったのに…
もうだめ…
私は…一人では生きていけない…
待ってて、今、あなた達の所に行くから…）



心を失いかけたファビエンヌはいつの間にか鈍く光るナイフを手にしていた。
ファビエンヌの頬を滝のような涙が流れ落ちる…
目を固く閉じ、ファビエンヌがナイフを高く振り上げた時、何者かの腕がファビエンヌの腕を掴んだ。



「誰？」

ファビエンヌの腕を掴んだのはテオドールだった。



「テオドール…！」

「ファビエンヌ…ずっと探してたんだよ。
やっとみつけた…」

「テオドール！」

ファビエンヌは、テオドールの胸に顔を埋めて泣いた。
テオドールはそんな彼女をずっと優しく抱き締めていた。



「テオドール、ごめんなさい。
私があなたを裏切ってローランと結婚したからこんなことに…」

「何を言ってるんだ…
誰だって、僕じゃなくローランを選ぶさ。
彼はお金持ちだし積極的だし、容姿だって僕なんかよりずっと素敵だもの。
僕は君のことを恨んだことなんて一度もないよ。
僕は君が幸せになってくれることを祈ってた。
だけど…君のことはもう諦めたつもりだったのに、母さんが亡くなってから思い出すのは君のことばかりだった。
そしてある時、その気持ちが押さえきれなくなって、一目だけでも君の姿が見たいとローランの屋敷の傍に行ったんだ。
そこで目にしたのは見知らぬ女性と小さな子供を連れたローランだった。
わけがわからず近所の人に尋ねたら、君とは別れ、その後再婚したと聞いて驚いたよ。
僕は君が幸せに暮らしてるものだと思っていたからね。
それからずっと君の消息を探してた。
長い間みつからなかったけど、ようやくみつけることが出来たら君がそんなことを…一体どうしたっていうんだい？」

「テオドール…実は…」

ファビエンヌはローランとの惨めな結婚生活、そして我が子がつい最近亡くなったことを告げた。