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033. 獣人
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*
「ねぇ、子猫ちゃん…名前はなんていうの?」
「え…わ…わし…じゃない!私は…グ、グレース…」
「グレース…子猫ちゃんにぴったりな素敵な名前だね…
私はダルシャ。
君の王子様さ。」
「お…王子様…」
グレースに優しい微笑を投げかけるその青年は、まさに夢に描いた王子様そのものだった。
グレースのものよりもさらに長い真っ直ぐな金の髪、均整の取れた細身の身体には、一目で上等とわかる生地で仕立てられた上着を身に付け、腰には輝く宝石で飾りたてられたきらびやかな長剣が携えられている。
青年の顔立ちはただ端正なだけではなく、透き通るような碧色の瞳は笑うとどこか無邪気でグレースの母性本能をくすぐった。
(近くで見るとますますかっこ良い…!
さ、最高じゃ!!)
「子猫ちゃん…今夜は二人っきりで素敵な夜を過ごそうね…」
「は…はい……」
夢心地のグレースはダルシャに手をひかれるままに、町外れの宿屋へ着いて行った…
*
*
*
「う~ん…」
明るい日差しの中、ダルシャがやっと目覚めた時には太陽はすでに高く上っていた。
「昨夜は最高だったよ…子猫……ん?」
寝起きにも関わらず甘い言葉を囁くダルシャは、隣に眠る人物を見て、一瞬すべての動きを停止する。
目をこすり、もう一度確認したその姿に、ダルシャは大きな声を上げ、ベッドから転がり落ちた。
「う~ん…誰じゃ、大きな声を出して…」
ようやく目を覚ましたグレースの目に映ったのは、引きつった顔をした裸の王子様だった。
「ダルシャ…一体…」
「お、お、お、おまえは誰だ!
い、い、いつの間にこんな所に…!」
「誰って、わしはグレース…」
そう言いかけて、グレースは変身の魔法が解けていることにはたと気付く。
(そうか…魔法の強壮薬の効き目が切れたんじゃな…
あの薬は確か一日は保つはずなのじゃが…昨夜、無茶をしすぎたせいか…)
グレースは昨夜の甘い一夜を思い出し、頬を赤く染めた。
「グレースだって…?
おまえがあのグレースだというのか?」
「え…そ、それは、その……」
「おのれ!妖しめ!
私を騙したのだな!」
言いよどむグレースに、興奮したダルシャの声がかぶさった。
「なんと、妖しじゃと…!
わしは魔法使いじゃ!妖しなどではないわ。
それに、何をそんなに怒ることがあるんじゃ!
わしは魔法で少しばかり若返っただけではないか!」
「少しだけだと!?
よくもそんなことが言えたものだな!
魔法で私をたぶらかすとは、なんと不届きな…」
「たぶからすだって?
部屋に入るなり襲いかかって来たのはそっちの方じゃないか!」
二人の罵り合いは止まらない。
「ねぇ、子猫ちゃん…名前はなんていうの?」
「え…わ…わし…じゃない!私は…グ、グレース…」
「グレース…子猫ちゃんにぴったりな素敵な名前だね…
私はダルシャ。
君の王子様さ。」
「お…王子様…」
グレースに優しい微笑を投げかけるその青年は、まさに夢に描いた王子様そのものだった。
グレースのものよりもさらに長い真っ直ぐな金の髪、均整の取れた細身の身体には、一目で上等とわかる生地で仕立てられた上着を身に付け、腰には輝く宝石で飾りたてられたきらびやかな長剣が携えられている。
青年の顔立ちはただ端正なだけではなく、透き通るような碧色の瞳は笑うとどこか無邪気でグレースの母性本能をくすぐった。
(近くで見るとますますかっこ良い…!
さ、最高じゃ!!)
「子猫ちゃん…今夜は二人っきりで素敵な夜を過ごそうね…」
「は…はい……」
夢心地のグレースはダルシャに手をひかれるままに、町外れの宿屋へ着いて行った…
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「う~ん…」
明るい日差しの中、ダルシャがやっと目覚めた時には太陽はすでに高く上っていた。
「昨夜は最高だったよ…子猫……ん?」
寝起きにも関わらず甘い言葉を囁くダルシャは、隣に眠る人物を見て、一瞬すべての動きを停止する。
目をこすり、もう一度確認したその姿に、ダルシャは大きな声を上げ、ベッドから転がり落ちた。
「う~ん…誰じゃ、大きな声を出して…」
ようやく目を覚ましたグレースの目に映ったのは、引きつった顔をした裸の王子様だった。
「ダルシャ…一体…」
「お、お、お、おまえは誰だ!
い、い、いつの間にこんな所に…!」
「誰って、わしはグレース…」
そう言いかけて、グレースは変身の魔法が解けていることにはたと気付く。
(そうか…魔法の強壮薬の効き目が切れたんじゃな…
あの薬は確か一日は保つはずなのじゃが…昨夜、無茶をしすぎたせいか…)
グレースは昨夜の甘い一夜を思い出し、頬を赤く染めた。
「グレースだって…?
おまえがあのグレースだというのか?」
「え…そ、それは、その……」
「おのれ!妖しめ!
私を騙したのだな!」
言いよどむグレースに、興奮したダルシャの声がかぶさった。
「なんと、妖しじゃと…!
わしは魔法使いじゃ!妖しなどではないわ。
それに、何をそんなに怒ることがあるんじゃ!
わしは魔法で少しばかり若返っただけではないか!」
「少しだけだと!?
よくもそんなことが言えたものだな!
魔法で私をたぶらかすとは、なんと不届きな…」
「たぶからすだって?
部屋に入るなり襲いかかって来たのはそっちの方じゃないか!」
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