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029. 外つ国の遺産(とつくにのいさん)
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「わかったよ、ルーシア…
ふたりのことは、まだ誰にも話さないで……」
チャックの言葉が不意に途絶えた。
泉の異変に気が付いたからだ。
月明りに照らされ、泉の中ほどが大きく波打っているのが見えた。
「チャック、何かしら?」
「なんだろう?」
ふたりは、その様子をただじっと見守った。
まるで何かが水の底から浮かび上がって来ようとでもしているような…
不気味な波の動きを、ふたりは息を飲んでみつめる。
「ルーシア、こっちへ!」
万一の危険を考え、チャックはルーシアの手を引き、木陰に身を隠した。
そのうちに、水が高く盛り上がり…大きな泡のようなものに覆われた小舟が現れた。
「チャック!あれは…」
「しっ!」
チャックはルーシアの口を塞いだ。
小舟はゆっくりと岸に近付く。
「誰か、乗ってるわ。」
「そうだね。」
舟には、年老いたふたりの男女が乗っていた。
その様子を木陰からじっと見ていたルーシアの瞳が、大きく見開かれた。
男女は舟を降り、手を繋いで歩き始めた。
「……待って!」
木陰から飛び出したルーシアの声に、二人の老人は驚いたように振り向く。
チャックも驚きを隠せなかった。
老人たちは舟に戻ろうとするが、若い二人の方が早かった。
「待って下さい!」
戸惑う老人たちの前に、両手を広げたルーシアが立ちはだかった。
「なんですか?」
「……あなたは……私ですよね?」
老人たちはさらに驚いた表情を見せた。
「ルーシア…どういうことだい?」
「……その通りです。
そしてあなたは、僕だ。」
ルーシアの代わりに、老人の男性が答えた。
「えっ?」
男性の顔をじっとみつめるチャックの目が、一際大きく見開かれる。
「まさか……!」
老人たちは深く頷く。
「そう…私たちは、未来のあなたたち…」
「そ、そんな……」
チャックの顔から、さーっと血の気が引いていった。
老人たちの顔はずいぶん変わったとはいえ、確かに面影は残っていた。
特に、ルーシアの泣きぼくろは、まるで変わっていなかった。
「水の中の町は、死んだサマラ族の人々が住む町だったんだ。」
「えっ!?」
衝撃的な言葉に、チャックは動きを止めた。
「驚くのも無理はない。
だが、本当のことなんだ。
サマラの者達は、死んでからあの町で暮らすんだよ。」
「とても穏やかで幸せな暮らしよ。
だから、あなたたちも死を恐れることはないわ。」
チャックもルーシアも、目の前の信じられない現実に、ただ戸惑うばかりだった。
ふたりのことは、まだ誰にも話さないで……」
チャックの言葉が不意に途絶えた。
泉の異変に気が付いたからだ。
月明りに照らされ、泉の中ほどが大きく波打っているのが見えた。
「チャック、何かしら?」
「なんだろう?」
ふたりは、その様子をただじっと見守った。
まるで何かが水の底から浮かび上がって来ようとでもしているような…
不気味な波の動きを、ふたりは息を飲んでみつめる。
「ルーシア、こっちへ!」
万一の危険を考え、チャックはルーシアの手を引き、木陰に身を隠した。
そのうちに、水が高く盛り上がり…大きな泡のようなものに覆われた小舟が現れた。
「チャック!あれは…」
「しっ!」
チャックはルーシアの口を塞いだ。
小舟はゆっくりと岸に近付く。
「誰か、乗ってるわ。」
「そうだね。」
舟には、年老いたふたりの男女が乗っていた。
その様子を木陰からじっと見ていたルーシアの瞳が、大きく見開かれた。
男女は舟を降り、手を繋いで歩き始めた。
「……待って!」
木陰から飛び出したルーシアの声に、二人の老人は驚いたように振り向く。
チャックも驚きを隠せなかった。
老人たちは舟に戻ろうとするが、若い二人の方が早かった。
「待って下さい!」
戸惑う老人たちの前に、両手を広げたルーシアが立ちはだかった。
「なんですか?」
「……あなたは……私ですよね?」
老人たちはさらに驚いた表情を見せた。
「ルーシア…どういうことだい?」
「……その通りです。
そしてあなたは、僕だ。」
ルーシアの代わりに、老人の男性が答えた。
「えっ?」
男性の顔をじっとみつめるチャックの目が、一際大きく見開かれる。
「まさか……!」
老人たちは深く頷く。
「そう…私たちは、未来のあなたたち…」
「そ、そんな……」
チャックの顔から、さーっと血の気が引いていった。
老人たちの顔はずいぶん変わったとはいえ、確かに面影は残っていた。
特に、ルーシアの泣きぼくろは、まるで変わっていなかった。
「水の中の町は、死んだサマラ族の人々が住む町だったんだ。」
「えっ!?」
衝撃的な言葉に、チャックは動きを止めた。
「驚くのも無理はない。
だが、本当のことなんだ。
サマラの者達は、死んでからあの町で暮らすんだよ。」
「とても穏やかで幸せな暮らしよ。
だから、あなたたちも死を恐れることはないわ。」
チャックもルーシアも、目の前の信じられない現実に、ただ戸惑うばかりだった。
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