Gift

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
140 / 697
022. 日常風景

しおりを挟む
「咲也、お兄さんにも…」

そう言いながら振り返ると、そこにはもうあの人はいなかった…

「兄貴がどうかした?」

「……なんでもない」



もしかしたら、あの人はこの世の人ではないのかもしれない。
その方が良い。
それなら、辛い想いをしなくても済みそうだから。


こんなに苦しいと思わなかった。
こんなに愛してるとは思わなかった。
私…ちょっと、おかしいかもしれない…
そのくらいあの人のことが好きだったことについさっき気付いてしまって、そして、急にものすごく苦しくなっていた。



「水青、どうした?」

「……ん、もしかしたら、風邪ひいたのかも…」

「大丈夫か?」

「……ん、大丈夫。」

「あ、さっき、兄貴見ただろ?」

「うん、見た。」

とてもそっけない態度で答えた。
私、女優の才能があるのかもしれない。



「なにかしゃべった?」

「……ううん、ちょうど咲也が帰って来たから。」

「そっか。
兄貴、あんまりしゃべらないし愛想悪いけど、気にすんなよ。
いつもあんななんだ。
もともと暗いんだよ。」

「そうなの…私、何も気にしてないから。」

「でも、あれでけっこうモテるんだよ。
昔からチョコの数はいっつも俺より多い。
おかしいと思わないか?」

「まぁ、人の好みはいろいろだし…
お兄さんもきっと良いとこあるんだよ。
お兄さん、彼女は?」

「いないみたいだな。
でも、きっと、もうじき出来る。」

「もうじき出来るって…なんで?
もしかして、咲也の予言?」

また女優の才能を発揮した。
本当はどきどきしてるのを必死で堪えてふざけてみせた。



「そうじゃなくてさ…
ものすっごく積極的な女がいるんだよ。
その子がもう何ヶ月か前から、兄貴に猛アタックしててさ。」

「お兄さんがその子とつきあうと思ってんの?
そんな押しの強い子、きっとお兄さんは苦手なんじゃないかな?」

「そんなことないさ。
兄貴みたいに消極的な男は、ああいう押しの強い女には意外とあっさりやられるんだよ。
もうじきバレンタインだしさ、きっと、あの子、本気で頑張ってくると思うしさ。」

「そうなんだ~…」



気のない返事をしながら、私の頭の中はその女のことでいっぱいになっていた。

なんていやな女なんだろう…!
そんな奴、死んじゃえ!

あの人はあんたになんて絶対になびかない!



どんな女なのかもまるで知らない相手のことを、私はただ猛烈に憎んでいた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

お人好し底辺テイマーがSSSランク聖獣たちともふもふ無双する

大福金
ファンタジー
次世代ファンタジーカップ【ユニークキャラクター賞】受賞作 《あらすじ》 この世界では12歳になると、自分に合ったジョブが決まる。これは神からのギフトとされこの時に人生が決まる。 皆、華やかなジョブを希望するが何に成るかは神次第なのだ。 そんな中俺はジョブを決める12歳の洗礼式で【魔物使い】テイマーになった。 花形のジョブではないが動物は好きだし俺は魔物使いと言うジョブを気にいっていた。 ジョブが決まれば12歳から修行にでる。15歳になるとこのジョブでお金を稼ぐ事もできるし。冒険者登録をして世界を旅しながらお金を稼ぐ事もできる。 この時俺はまだ見ぬ未来に期待していた。 だが俺は……一年たっても二年たっても一匹もテイム出来なかった。 犬や猫、底辺魔物のスライムやゴブリンでさえテイム出来ない。 俺のジョブは本当に魔物使いなのか疑うほどに。 こんな俺でも同郷のデュークが冒険者パーティー【深緑の牙】に仲間に入れてくれた。 俺はメンバーの為に必死に頑張った。 なのに……あんな形で俺を追放なんて‼︎ そんな無能な俺が後に…… SSSランクのフェンリルをテイム(使役)し無双する 主人公ティーゴの活躍とは裏腹に 深緑の牙はどんどん転落して行く…… 基本ほのぼのです。可愛いもふもふフェンリルを愛でます。 たまに人の為にもふもふ無双します。 ざまぁ後は可愛いもふもふ達とのんびり旅をして行きます。 もふもふ仲間はどんどん増えて行きます。可愛いもふもふ仲間達をティーゴはドンドン無自覚にタラシこんでいきます。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

【完結】モンスターに好かれるテイマーの僕は、チュトラリーになる!

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 15歳になった男子は、冒険者になる。それが当たり前の世界。だがクテュールは、冒険者になるつもりはなかった。男だけど裁縫が好きで、道具屋とかに勤めたいと思っていた。 クテュールは、15歳になる前日に、幼馴染のエジンに稽古すると連れ出され殺されかけた!いや、偶然魔物の上に落ち助かったのだ!それが『レッドアイの森』のボス、キュイだった!

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...